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近所の畑が売られ、住宅地になったのは5年ほど前の事だった。

私の通勤途中にあるので、整地され、宅地になってゆくのを見てきた。
そこは真ん中に道が作られ、左右に4件ずつの家が次々と建っていった。
自転車を漕ぎながら、朝や夕にその前を通ると、
待望の家を手に入れた明るい家族の声や、
色々な生活音が聞こえて希望に満ち、活気にあふれている様に見えた。

それから一年もしないうちに、左側の角の家から人気が無くなった。
(あれ?どうしたんだろう)
その家は東側に玄関がある2階建ての家だった。
南側にキッチンがあるらしく、前を通る時、親子の話す声や食器のふれあう音が良く聞こえていた。
けれど、ふいに生活感が無くなり、夕方通り過ぎても灯りさえ点いていない。
私は、その家に家族が身を寄せ合って生活している姿に妙な親しみすら覚えていたのでその家族の身を心配してしまった。
その家族に住めなくなるほどの、何か良くない事が起こったのは間違いない。
離婚したのか、ローンが払えなくなったのか、何があったのか私に分るわけも無かった。
同じ町内なので、母に聞いたが何も知らなかった。
「まあ、人生なんて何があるか分らないからね」 そう母は言った。
前を通る度、何となく寂しい思いをしながら通勤していたのだが、ある日の朝ちょっとした事があった。

その日、その空っぽの家の前を通り過ぎた時、家の中から
「もーいいかい?」 と、甲高い楽しげな男の声が聞こえた。
私はぎょっとして家を見たが、車も無く人が居る様子は無かった。
(あーびっくりした。何だろ?)
ドキドキしながら今の出来事を考えて、ああそうかと思った。
きっと隣の家の人の声が聞こえたんだろう。
あそこは敷地も狭いし、家と家の境に塀が無いから隣の人の大きい声が聞こえたに違いない、
朝から子供と遊んでいたんだろう、そう自分を無理矢理納得させた。

そんな出来事も忘れた頃、その家に別の家族が住み始めた。
今度の人達には子供はいない様だった。
軒先に洗濯物が干され、車も2台止まっている。
(うーん、新婚さんかなぁ)
などと、下世話なウオッチをしていたが、また半年ぐらいで無人になってしまった。
(えー、何で?)
確かに敷地は狭いし、道路際だから車や人の往来があるけど南向きだし、
角地だから家と家に挟まれて居るわけでも無い。
ましてや、元畑だから訳ありの土地でも無い。
まあ欠点と言えば、家の横にその住宅街のゴミ置き場があるくらいだった。
(やっぱ、塀があるけど臭うのかなぁ)
などと、考えてしまった。
けれど条件は住む前に確認するだろうし、そんなことで引っ越すだろうか?

そしてそれから少ししたある夜の事、私は残業で結構遅い時間にその道を走っていた。
例の家の前まで来た時、
「もーいいかい?」
あの男の明るい声が響く。
(わっ!)
本当に、ゾワッと全身の毛が逆立った様に感じた。
たしかにあの家の中からだったが、家は真っ暗で人なんて居るはずがなかった。
「絶対、隣の声じゃ無い!」

私は家に帰って、興奮しながら今の出来事を母に話した。
なのに母はのんびりお茶をすすりながら、私を眺めている。
「ねぇ、聞いてるー?」
私は、母の姿にちょっとイラッとしながら言った。
「聞いてるわよ」
母はため息をつくと、こんな事を教えてくれた。
「鬼門って聞いたことあるでしょ。北東の鬼門から南西の裏鬼門。
良くないものが通る道だから、汚い物は置いちゃダメなのよ。運気も下がるし。
玄関とかトイレ、お風呂場とか。
まあ、ゴミ置き場は敷地の中じゃないから関係ないかも、だけどね」

あっと私は思った。
「玄関!」
確かに、玄関が北東の方角に、ゴミ置き場が南西にあった。
「今はそんなこと気にする人は、あまりいないけどね。でも、多少きっかけにはなったんじゃないかな。」
母はお茶を一口飲むと話を続けた。
「もしかしたらあんたが聞いた声は、その家の旦那さんが子供と遊んでいた、
幸せだった頃への思いとか、執着とか。きっとまだ残っているんだよ」
そう母は言った。

その家はその後も持ち主が転々とし、今はまた「売り物件」の看板が架かっている。
何が本当の原因か分らないけど、あの家は人が居着かない、居着けない家になってしまったのかもしれない。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-
朗読: 怪談朗読と午前二時

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