その男はキャンプが趣味である。
それもキャンプ場ではなく整備がされていない山で行うソロキャンプであり、決して他人が居てはならないと男なりのルールがある。
日々、都会で家と会社を行き来し、無機質なところで無機質な物体と対峙し、道行く人々や車などの人工物が作る雑踏の中を毎日歩む事により生まれた疲れを、そのようなものとは一切縁がなく、またそのようなものとは正反対の異界とも言える場所に身を置いて男は疲れを癒すそうだが……。
「なんでお前は急に俺をキャンプに誘ったの?あれほどソロキャンプに固執していたのに」
「聞くか?」
それは夏も終わり、涼しい風が吹きだした時期のことだった。
その日私は、ネットでキャンプに向いており、かつ日々住む世界からは逸脱した土地を探していた。
1時間もすると条件に合う土地が見つかった。
そこは不自然に開けた平地が広がっており、その周りを森、山と囲んでいると言った場所だった。 奇妙なことにその平地には一本の木が立っているようだった。
そして夜はその平地から星でも見よう。そうして計画は決定。
そうと決まれば準備は早く、期待に胸を膨らませながら雨具や食品、テントなどの道具をリュックに詰めていった。
次の日、時刻は朝の5:00、朝食を食べて準備して置いたリュックを車に詰めて6:00に出発。
2時間も車を走らせ、途中で林道に入り、9:00に現地到着。森の中を数メートル歩き、平地に出た。
そこは地図で見たとおり向こう側の森寄りに周りの森よりはるかに大きな木が一本立っており、見通しもよく、期待通りの場所だった。
遠目に見て木は相当古いようで、枝のようなものが折れて吊り下がっている。
それから私は車と森を背に、平地の方向に入り口を向け、横になりながら空を眺められるようにテントを設置した。
準備が終わり、昼食も取ったので少し暇になり、私は半分だけテントに潜り平地を正面に本を読み時間を潰した。いい感じに光があたり、非常に快適だった。
しかし、時間というのは早く過ぎるものであり、時刻は6:00。 空は薄暗くなり、風も冷えてくる。
私は本を閉じ、空を見上げる──目が止まる。 私の目は木に止まった。
木が先ほどより大きい気がする。暗くなったから見え方が変わったのだろうか。
そうして言い様のない不安を感じながら夕食の用意をした。
しかし一人、山の中で食べる食事はうまいもので、先ほどの不安などは吹き飛んで行った。
そして食後、楽しみにしていた夜空を見た。
予想通り満点の星空だった、星座を探したり、写真を撮ったり、寝そべって見て見たり、とにかくその星空を満喫した。
気づくと夜中の11:00あたりを回っており、いかんいかんとテントに潜り、布団に入る。
そしてテントの入り口に手をかけ──背筋が凍りついた。
木が異様にでかくなっている……いや、近づいてきている。
背筋が凍りつくという表現は単なる比喩表現でないことを体感した……。
私はあまりの恐怖にすぐさま入り口を閉じて布団に頭から潜り込んだ。
しばらく大人しくしていると、睡魔というのはまだ沸きたての恐怖にはまさったようで私は寝てしまったようだ。
ミシッ……ミシッ……ミシッ……
しばらくして、私はなにかがきしむ音に目が覚める、時刻は2:00ぴったり。テント前、すぐそこで何かがきしむ音がする。
私はさっきあったことも忘れて半分眠りながら入り口を開ける。
そこには大きな木と、その木に首を吊りながら横に振れる人影がいた。 ブンブンと大きく揺れるその人影は、しっかりと私を見ていた。
私は荷物も全てそこに残し車に向かって走り、飛び乗った。 そして猛スピードで車を発進させる。
去り際に木を見ると、揺れは止まっており、テントの明かりに照らされた人影は口をパクパクと動かしていた。
「お」「い」「つ」「く」「か」「ら」
私にはそう見えた。
「って言うことがあったんだ」
「なぁ…..」
ミシッ……ミシッ……ミシッ……
