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お前かと思ってた

「俺はおばけとか見た事ないし、基本的にあまり心霊的なものは信じてないんだよね。神様とかは、いるといいなと思うけど」  

私の地元でレストランを開いているTさんに、何か怖い話を知らないかと尋ねて返ってきた答えがこれである。
「だいたいさ、ああいうのを信じる人っていうのは、自分にものすごく自信がある人だと思うんだよね」  
そうかな、むしろ逆のタイプの人の方が、スピリチュアルとか宗教とかにハマっている気がしますけど、と返すと
「だってさ、なにかの拍子に変なものや説明のつかないものが見えたとしても、普通は気のせいだとか、見間違いだとか思うだろ?
だけど、オカルトを信じている人って『いや、あれは絶対におばけだー!』って言うじゃない。
よほど自分の見たもの感じたものに自信があるんだと思うわけよ」
なるほど、と思った。続けてこう話した。
「昔友達とドライブしてて、相手が話に夢中になっているうちにけっこうな距離を走ってたんだよ。そういう事あるじゃん。
でも、そのときそいつが言ったんだよ。
『なんかおかしい。こんな短い時間でこんなところまで来れるはずがない。もしかして、ワープしたんじゃないか』って。
真面目にだぞ?なんだそれって思ったね」
そう言って笑ったので、私もつられて笑った。
「じゃあ、Tさんはそういうオカルトッチックな体験は一切ないんですか?」
すると、少し考えてからTさんが言った。
「いやある。俺がじゃないんだけどね。俺の部屋に泊まりに来た奴が、真っ青な顔して帰った事が二回ある。
二人とも同じ事言ってたんだよ。『お前だと思ったらお前じゃなかった』って」
そしてTさんが話してくれたのはこんな話。  

東京のレストランで修行をしていた頃、住んでいたアパートに友人が泊まりに来た。
二人で酒を飲み、眠くなったのでリビングに友人の分の布団を用意してあげてから、Tさんは自室に入った。
ベッドに入りウトウトしていると、リビングから友人の声がする。
携帯電話もまだない時代。何を一人で喋っているのだろうと思ったが、眠かったので放っておいた。  

しかし深夜になって、突然友人の出す大声で目が覚めた。
あわててリビングに向かうと、友人が自分を見て一瞬ぽかんとし、それからみるみる真っ青になったのだという。
「俺、帰る。」
「え?なんで?それにもう終電過ぎてるぞ?」
「こんなところで寝られない。絶対に帰る。歩いてでも帰る」
「え、おまえどうしたんだよ」
理由を聞こうとするが、とにかく帰るの一点張りで、とうとう本当に帰ってしまった。  

後日、一体何があったのか尋ねると友人の主張はこうだ。  
Tさんが自室に引っ込んだ後も一人でちびちび酒を飲んでいたのだが、だんだん眠くなってきたので布団に潜り込んだ。
そのとき何気なく入り口に目をやると、ドアの近くの壁にTさんが向こう向きで立っていた。
どうしたんだ、何か忘れ物か、と尋ねるが返事がない。
そのときは特に気にせず『じゃあ、俺ももう寝るから。おやすみ』と言って眠った。  

そして深夜、なにかの気配で目が覚めた友人が入り口を見ると、Tさんがそこにまだ突っ立っている。
明かりをつけたまま眠ってしまっていた。
悪い事をしたなと声をかけた。
「悪い、起こした?ちゃんと電気消すから、お前も寝ろよ」
しかしTさんは何も言わずそこに立っているだけである。
まあいいや、と立ち上がって明かりを消し、再び布団に入った。  

その瞬間、壁際にいたTさんがすっとこちらをむいた。
え?と思う間もなく、音もなく友人の布団のそばへやってくると、足元にしゃがみ込んだ。
「え?なに?どうした?」
返事はない。
薄暗がりのなか、じっと足元でうずくまっているTさん。
気分でも悪いんだろうか。上体を起こして声をかけた。
「おい、T、どうした?大丈夫か?おい!気分悪いのか?」
返事はない。
「お前、ほんとに大丈夫か?おい!」
そうして立ち上がって電気をつけた瞬間。
足元には誰もいなかった。
「え?」
それで訳が分からなくなり、大声でTさんを呼んだのだという。
「そしたら、お前俺の背中側の入り口から入ってくるじゃん。しかもパジャマ着て。さっきまで服着てたのに。
今起きましたって顔でさ。じゃあ今まであそこにいた奴は誰なんだよって話だよ。
俺はお前だと思ってたんだ。でも違ってた。夢じゃない。」

二人目は職場の先輩で、もっとシンプルだ。
休みの日に遠出をした先輩から「家に帰るのがめんどくさいから」と、
より職場に近いTさんの家に泊めて欲しいと言われた。
仕事中のTさんから鍵を借り、先に部屋に入る。
Tさんはその日遅番で、帰りは終電近くになる予定だったので、
「寝室にもう一組布団が置いてあるから、自分で敷いて寝てください。でもベッドは俺が使いますからね。
帰りは夜中になると思いますんで、おこしちゃったらすいません」  

しかし結局その日は仕事上がりに同僚と飲みに出てしまい、帰りは始発となった。
早朝ふらふらしながら帰宅すると、先輩がすでに起きていてトイレから出てくるところに鉢合わせた。
「え?お前、今帰ってきた?夜中に一回帰ってきたよな?いつ外に出た?」
「いや、俺みんなで飲みに行ったら終電逃しちゃって、朝まで飲んで今帰りです」
そういうと先輩があわてて寝室に向かい、キョロキョロしたかと思うと
「おれ、帰る」 と言いだした。

先輩いわく、夜中寝室のドアが開いてTさん(らしき人)が入ってきた。
何もいわずベッドに入り、眠ったようだったので放っておいた。
そして早朝トイレに行きたくなり起きた時に確認すると、やはりベッドでTさんが眠っているようだったので、
起こさないようにそうっと部屋を出てトイレに行き、出てきたところで帰宅した本物のTさんと鉢合わせたのだという。

「その時も言われたんだよ。『お前だと思ってた。でもお前じゃなかった』って。なんなんだろうな、これ」
Tさんは不思議そうにそう締めくくった。
「それって同じ家なんですか?」
「いや、それが別のアパートなんだよ。変だろ?」
ちなみに、Tさんはもちろん双子ではない。

朗読: ジャックの怖い話部屋

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