私には「ドア」を通り抜けた先を異世界に繋げる能力があった。
頭にあるイメージを思い描きながらドアに触れ、開けるとその先は赤黒い空と黒い石の砂丘のような場所になった。
初めてゲートをつなげた時は偶然だった。
自分の家に入ろうとしたら家の中が何故か赤黒い空の屋外なのだ。
4才か5才だったと思う。 当時、私たち家族は公団団地の3階に住んでいた。
驚いた私はとっさにドアを閉め、階を間違えたと思い、4階の同じ位置にある室のドアを開けた。
私の年代は、家の鍵は昼は開けっ放しが当たり前の時代だった。
「あら、○○君、どうしたの?」と、その室に住む友達のお母さんが言った。
「間違えちゃった」と私は言い、3階に戻り、恐る恐る自分の室のドアを開ける。
見慣れた私達家族の室内だった。
もしも現在の私がこの能力を使えたら様々な形で有効活用したと思う。
しかし当時の私はただ恐怖だった。
しかしながら、何度か偶然繋がり、その中でどうしたら繋がってしまうのか、どうやれば繋がらずに済むのかを知った。
ある日ゲートを繋げ、母に見せた。
しかし、母にはドアの先は普通の景色に見えているらしい。
母は私の話を確かめようとドアをくぐろうとした。
「待って!!」と私は大声で引き止めドアを閉めた。
くぐったら絶対に帰ってこれない気がしていて、私自身も一度もくぐった事はなかったが、くぐったら絶対にダメだと思っていた。
一度古新聞を棒状に丸めたものの先端だけそちらの異世界に突っ込んでみた事があったが、特に変わることはなかった。
だけどくぐったら絶対にダメだと思っていた。
それから数年、小学3年生の夏、私は父が経営する洋食店に居た。
経営と言っても、基本父一人で、忙しい時間だけ母が手伝いに行くという、所謂自営業である。
今では即逮捕されるが、当時は嫌がらせで立ち退きを強要する地上げ屋(ヤクザ)は本当に存在した。
大人になってから知ったが、あの店は賃貸契約で、オーナーは売却に応じていたが父が解約しようとしなかったらしい。
地上げ屋はいつも3人で来た。
子供だった私には話の内容など理解できなかったが、父が大声で脅される事が数回、そしてある日、テーブルをひっくり返され椅子を一脚壊された日があった。
地上げ屋が帰る間際あたり 私は、店の出入り口を異世界に繋げた。
こちらの世界から向こうを見た場合。私以外には普通に見える。
地上げ屋はゲートをくぐった。
私から見た彼らは、うろたえ、こちらに戻ろうとしたのか、振り向いた。
しかし出入り口を見失ったようでオロオロとしていた。
父がドアに近づいてきたので、くぐってしまわないように、勢いよくドアを閉めた。
父は「今、消えたね」と言い、ドアを開けた。
3台だけ停められる駐車場に彼らの車が停まっていたが彼らはどこにもいなかった。
翌日になっても停めたままだったため、父は警察に電話すると言っていた。
私は最終的に、2ヶ月くらいの間に地上げヤクザ20人ほど行方不明にした。
地上げ屋が消える時、私が必ずドアを強く閉めるからなのか、父は私に「何か見えているの?」と聞いた。 ごまかした。
父は現在は既に引退しているが、人が消える事を不気味に感じた事もあったようで結局店を引っ越した。
もしも当時の私の能力を科学的に証明でき、尚且その行為に及んだのが14才以上だった場合、何かしらの罪に問われただろう。
恐らく、あのヤクザたちは現在でも行方不明だと思う。
その後、ふとした事故で万が一自分自身や私の大切な家族友達がゲートをくぐってしまったらという事を懸念し、繋ぐことはなかった。
大人になってから、繋いでみようと思ったが、もうできなくなっていた。