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肝試し

年上の友人、Oさんに聞いたお話。

私たちの地元は海沿いの町で、養殖業が盛んです。
昔は魚がたくさんとれていたので景気が良かったのですが、昭和後期に漁獲量が減ってゆくのと同時に町も衰退。
そこで漁師さんたちは次々と養殖業に切り替えていったのですが、魚の養殖というのは莫大な設備投資が必要なのです。
これまでの蓄えと銀行からの融資金を全部つぎ込んだのに、
育てていた魚が病気になったり台風が来たりすると、すぐに借金で首が回らなくなります。
そうして実際に、何人もの養殖業者が首を吊ったのだそうです。

さてこの町に、「テレビ塔」と呼ばれる場所がありました。
山の上に、その名の通りテレビのための電波塔があって、
その近くには桜の木が植えられていてちょっとした公園になっています。
私が子供の頃は、春になると提灯がともされていて、花見に行ったりしたものですが、
その頃にはすでにそこで花見をする人はいなくなっていました。
なぜならそこで、近くの集落の漁業関係者が首を吊って自殺したからです。
そして、娯楽のない小さな町のことですから、すぐに鉄板の肝試しスポットになったのです。

Oさんたちの仲良しグループで、ある時、このテレビ塔に肝試しにいくことになりました。
男女5人ずつの計10人で2台の車に乗り合わせて途中まで進み、全員で山頂のテレビ塔の公園まで登って、
そこで男子が相撲をとる、というなんだかよくわからないイベントが企画されたのです。
実はこの肝試しは、完全にフェイクでした。
実際はグループ内の一人の女子がある男子に恋をしていて、
告白するタイミングをつくるために企画されたものだったんです。
テレビ塔に肝試しに行って何かを見たと言う話も聞いたことがないし、
実際にメンバーのうち数人は、すでにここでの肝試し経験者。
だから、本当の目的を知らされていないターゲットの男子以外は、誰も本気でこわがってはいませんでした。

灯りのない狭い道を車で進み、少し広くなっているところに停車させてから、
残りの道を全員で懐中電灯片手に歩いて進みます。
さり気なく、片思い女子をターゲット男子の近くに配置し、
周囲は 「わー、なんか雰囲気あるね」 「やだー、やっぱり怖いよー」 などと怯えて見せて雰囲気を作って、
二人が自然とくっつける状況をこしらえていきます。
山頂につく頃には、二人はなかなかいい雰囲気に。
しかし、ここで問題が起こりました。 ターゲットの男子は怖がりだったのか、
「やっぱりもう帰ろうよ」 としきりに言い始めました。
また、仕掛け役の中からも 「気分が悪い」 と訴えるものが出始めたのです。
Oさんはまったく霊感もないし信じてもいなかったので、
「みんな演技過剰だなぁ、告白タイムに持ち込みづらいじゃん、空気読めよな」
と思っていたそうですが、本当に体調不良がひどい子が出てきて、告白どころではなくなってしまいました。
そこで、とりあえず相撲は中止にして、車に引き返して山を下り、飲みに行こうという話になったのだそうです。

行きと同じように2台の車に分乗し、引き返し始めました。
Oさんは後ろの車の助手席に乗り込みました。
同じ車の後部座席には体調が悪くなったターゲット男子が眠り込んでいて、片思い女子が付き添っています。
しばらくして、先行車の様子がおかしいことに気づきました。
くねくねとした狭い山道なので、スピードは遅いのですが、なんだかフラフラしているのです。
「前の車、なんか変だよな」
運転手の子も気づいて、心配そうに言いました。
なにせ、本当に田舎です。
場所によっては、たよりないガードレールの外は崖、というところもあります。事故になったらおおごとです。
「ちょっと!あれやばくないか?」
Oさんは声を上げました。
下り坂の緩やかなカーブに差し掛かった前の車は、
どう見てもカーブをなぞらず、道の横の崖に向かってゆっくりと進んでいるのです。
「あいつらなにやってるんだ!洒落にならん!」
運転手はクラクションをならし、パッシングしました。
しかし、前の車はとまりません。のろのろと崖に進んでいきます。
「うわっ、うわっ、どうしよう」
Oさんたちもパニックです。
でもどうしようもなく、目を見開いて呆然と眺めるしかありませんでした。
「おちる!」
突然、先行車が一回転する勢いで向きを変えました。
砂利のゾーンでずしゃーっっという音と土煙。
そしてガードレールギリギリの位置で車は止まりました。
後続のOさんたちのは、あやうくぶつかりそうになりましたが、とっさに運転手がハンドルをきったため無事でした。
ホッとしたOさんは車を降り、先行車の運転席に駆け寄ります。
「おい!大丈夫か?!っていうかなにやっとるんや!マジで洒落ならんわ!」
先行車の運転手は真っ青でした。
助手席の女の子がハンドルを掴んでいて、こちらもぐったりしています。
「ブレーキの故障か?」 ときくと、 「たぶんちがう」 と。
「じゃあ、お前あっちの車乗れ。俺が下までかわりに運転するから。」
Oさんはそう言って運転をかわり、とりあえず、2台はふもとのファミレスの駐車場に向かいました。
道中、先行車の後部座席に座っていたメンバーがホッとした様子で口々に状況を話してくれました。

いわく 「移動をはじめてすぐ、運転していた子の様子がおかしくなった。
車が蛇行するようになり、みんなでどうしたのかと、声をかけると、体がうまく動かないと言う。
下り坂だったのでほとんどアクセルを踏んでおらず、なんとか運転していたが、
あのカーブにさしかかったあたりで車が崖に進み始めた。
みんなで『ブレーキ!ブレーキ!』と叫んだが、『踏めない…踏めない…』と答えるばかり。
助手席の子がいちかばちかで思いっきりハンドルをきったら、車が回転して止まった」 のだそうです。
車をおりて、もともと乗っていた方の車にいくと、助手席に座らされた先行車の運転手はようやく落ち着いたようでしたが、
とても飲みに行けるような状態ではありませんでした。
そこで、もうその場はおひらきにすることにしたそうです。

ちなみに、後部座席ではまだターゲット男子がぐっすり寝ていました。
帰り際、 「おれ、あのとき頭とか意識ははっきりしてたんだけどさ、
身体だけがなんでかものすごく動かしにくくて、
車が崖に向かってるのを見てなんとかしなくちゃって思ってるのに、
とにかく体がだるくてだるくて動かせないんだ。なんだったんだろう。
でもとにかく、みんなを危険な目に合わせてごめんな。
おれ、病院いったほうがいいのかな」 と泣きそうになっている運転手をみんなで慰めたそうです。
助手席に座っていた女の子が代わりに運転して彼を送っていくというので、
そっち方向に帰るメンバーを全員無理やり乗せ、解散となりました。
残ったのは後続車の運転手、助手席にOさん、そして眠りこけているターゲット男子。
「俺らも帰るかー」 とエンジンをかけたとき、ターゲット男子が突然 「ぶわっ!」 と大声を出しながら飛び起きました。
「なんだよ!ていうかおまえよくあの状況で寝れるな!大変だったんたぞさっきまで!」
とOさんがムカついてどなると、彼は言いました。
「首吊りじゃない…」
「え?」
「あそこで死んだ人、首吊じゃなかった。ずっと夢を見てたんだよ。
練炭だった。車の中で、火つけてさ、苦しいのに体がもう動かなくて、それで…」
そういって、黙り込んでしまいました。
前の座席の二人は、口がきけませんでした。
そして、Oさんはその時初めて、彼がびっしょりと汗を書いていることに気づいたそうです。

10年近くたって、仕事でたまたま、あのテレビ塔で自殺をした方の親族に話を聞くことができたそうです。
当時は借金を苦に首を吊る人が多かったため間違った噂が流れていたようなのですが、
あそこでなくなった方は本当に練炭での一酸化炭素中毒で亡くなっていました。
このことはごく一部の親族しか知らないそうです。
あえて噂を訂正しなかったのは、当時周囲の人間が気を使って噂が耳に入らないようにしてくれていたのでそんな話になっているとは知らなかったし、
知った後もわざわざ身内の酷い死に様を語る気にはなれなかったからだ、とおっしゃっていたそうです。

肝試しの日の出来事が何を意味しているのかわかりませんが、
この一件以来、Oさんは幽霊はいるのかもしれないと思うようになったそうです。

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