濡れ衣

昔、あるRPGゲームをしていた。
高校生達が街に起こった『異変』に立ち向かっていくという内容で、
魔法使用時に各キャラ達が個性的な掛け声をかけるあのゲームだ。
自分もそのキャラクター達とほぼ同い年で、そのゲームにすっかり入り込んでいた。
私と同じくゲーマーな父とゲームをする時間を巡って、ジャンケンで白熱バトルを日々繰り広げていた。

ある日、母が買い物に行きたいと父に言ったので、自分が留守番としてゲームをする事に。
意気揚々とゲームを開始して数分後、1階の客間をゲーム部屋として使っていたが、2階廊下から誰かが走り回る音が聞こえる。
3人家族で、両親は買い物、家には自分のみ。
玄関は客間の横に位置しているので、訪問者があれば気がつく。
誰かが居る筈もないのに、走り回る音がうるさい。
音的に、小さな子供がバタバタ走っている感じだった。
また始まった…と思いながらゲームを続行。

20〜30分過ぎたが、ずっと足音は続いている。
一旦ゲームを中断して、階段から2階に向かって叫んだ。
「ずっとうるさいよ。走り回るなら外で遊びな!」
するとピタっと音が止んで、シーンとなった。
ゲーム音と街の生活音が耳に届くくらいで、不審な音はしない。
ゲームを再開して数分後。また走り回る音が聞こえる。今度は音が少し強い。
「うるさいって言ってるでしょ?聞こえてるくせに!」
再び2階に声をかけると、その時は音は止む。
でも、今度も反抗するように音がさらに強くなり、今回はドタドタと暴力的な音がする。
「しつこいよ!!」
こちらも負けずに叫ぶ。こうなると意地だ。
怒りがそろそろ限界を迎えようとした瞬間、パリーン と乾いた音が2階から響いた。
ゲームをそのままに急いで2階に駆け上がると、廊下に飾ってあった花瓶が砕けている。
「ちょ…何やってんの?!この…!!」
周りにナニカの気配がふわふわしているが、それが一瞬でフッと消えた。

異変に気がついて、警戒した瞬間に玄関から母の声。
「ただいま〜。帰ったよー。留守番ありがと…って、2階にいるの?」
買い物袋を玄関に下ろして、上がってくる母。
その目の前には砕けた花瓶と、私がしゃがみ込んでいる。
「ちょっと、何で花瓶割ってんの?!」
「私じゃない!!」
「家にアンタしか居ないのに、他に誰がするっていうの!!」
ごもっともな意見です。 でも、私じゃない。濡れ衣だ。
進めていたゲームもセーブしてない状態で父にヒョイと消された。
花瓶を割った犯人にされ、更にゲーム1週間禁止のおまけもついて来たのはショックな出来事だ。
踏んだり蹴ったりな休日だった。

朗読: 榊原夢の牢毒ちゃんねる

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