どうしてよ

前の夫と暮らしていた時の話です。

夜、些細なことから口論となり、私は家を出ました。
同じ空間にいたくないという気持ちと、一度頭を冷やしたいという気持ちからの行動でしたが、
田舎の深夜一時というのは本当に開いている店がないんです。
車を出したものの、行くあてのないまま近所をしばらくまわり、
結局歩いて5分のところにある運動公園の駐車場に車を止め、ぼんやり物思いにふけっていました。
30分ほどたって、スマホに夫からの着信。
「もしもし?今どこ?」
「〇〇公園の駐車場で頭冷やしてる」
「なんでまたそんなところに。とにかくさっきはごめん。危ないからはやく帰ってきなよ」
しかし、まだ冷静になれていなかった私はもう少しここにいると言い、また口論になりました。
家を出たときの喧嘩の内容を蒸し返してしまい、二人とも感情的になってしまったのです。

「だいたい、そんなこと言ったってこの前も」 『どうしてよ』
突然、電話から女の声が聞こえました。それはもう、はっきりと。
思わず言葉がとぎれました。遠くから響いてきた音ではなく、とてもタイトでクリアな音でしたが、
周囲を見回してみても、人影も停まっている車もありません。
突然話をやめた私に、電話の向こうで夫が 「もしもし?どうした?」 と言っているのが聞こえます。
私は、夫が飲み屋かどこかにいるのかと思い、尋ねました。
「ねえ、正直に答えて。いまどこにいるの?」
「家」
「ほんと?」
「うん、行くとこ無いし」
「じゃあ、テレビついてる?」
「ううん、つけてない」
「じゃあ、えーっと、誰か家に呼んだ?」
「こんな時間に呼ぶわけないじゃん、さっきから、なに?」
夫が不審そうな声を出します。
「今、そっちから女の声が聞こえた。」
「なにそれ、やめてよ、だれもいないよ」
「ちょっと、今から帰る」
私はその時、夫が女を連れ込んでいる可能性や、
嘘をついて出かけている可能性を疑っていて、まったく怖いとは思っていませんでした。
女性の声には、静かな怒りと苛立ちが混ざっているように聞こえたことも、そう疑った原因でした。

電話を切るのと同時にエンジンをかけ、1分で帰宅。
急いで家に入りましたが、私が家を出たときから、灰皿の吸い殻が増えた以外に変化のない台所で夫がぽつんと座っていました。
「ほんとに一人?」
「一人だよ、怖いこと言うのやめて」
「おかしいな、でも確かに…」
「トラックの無線がまざったとか」
「そうだとしても、タイミング良すぎて怖い。そもそもそんなことあるの?」
「いや、知らんけど」
「あと、国道に向けて車をとめて電話してたから断言できるけど、
あのときトラックは通ってなかった。駐車場にもいなかった。」
その晩は、なし崩しに仲直りということになり、寝ました。

不思議なことがあった、という程度の認識で、その後職場の人や友人にときどきこの話をしていたんですが、
ある日パートのおばちゃんにこう言われたんです。
「それ、旦那さんには聞こえてなかったのよね?
じゃあ、電話の向こうじゃなくて、車内にいたんじゃない?耳元に。」
思わずぞっとしたので投稿させていただきました。

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