武装心霊探訪その4

この話は、投稿するのに随分時間が掛かってしまいました。
話すことで、彼らの憎しみや恨みが伝染するかもしれないと思っていたからです。

営業職、二年と一ヶ月のある日、私はこの仕事に対する疲れを感じていました。
正確には、仕事にではなく心霊に接触するケースがあまりにも多かった…ということでしょう。
この世のものでない連中を相手にするというのは、生命エネルギーを多量に消費してしまいます。
それが長ければ長い程、自身の寿命を縮めることになると、お考え下さい。
実際ヘトヘトになって自宅に帰ると、寝ているはずが首を吊りそうになっていた。…なんて日常的にありました。
そんな中、私が遭遇した、人生で最悪の話をしたいと思います。

その月は、営業成績がよく、一日に何件も契約が取れたりしていて、
所謂サボりみたいなことが出来る日がたくさんありました。
上司も機嫌がいいのか、車中で昼寝しないかと誘ってきたり、
私有地に探検と称して無断で入り込んだり、とにかくバカ丸出しでした。
ここまでくればお分かりかと思いますが、心霊スポットツアーも度を越えてきていたんです。
廃屋や自殺の名所はお約束、ネットで出てくる場所はほぼ網羅してました。
ただ…。私達は、越えてはいけないラインを越えてしまいました。
それが…「人骨トンネル」。

その昔、過労で死んだ人間や、働けなくなった人間を生きたまま壁に埋めたとされる手掘りのトンネルです。
なぜかは分かりませんが、コンクリートのトンネルよりも強度が出るそうなんです。
当然ですが嫌な予感しかしません。
上司は言うことを聞かないとすぐ怒鳴るので、強制連行。
はい発見。昼間なのに大量の死人がいるじゃありませんか。痩せてガリガリの炭鉱夫。
死んでもなお、働き続けるなんて…。
ここで強烈な異臭と吐き気。
とっさにホルスターから銃を抜こうとするも、全身硬直。金縛りです。
上司は呑気にトンネルに近づいています。
全身を走る悪寒。…奴ら気付きやがった。私が敵意を向けていることを。
ゆっくりと炭鉱夫共はこちらに視線を移すが、全員が落ち窪んだ眼孔に白目。
あっ、上司が転んだ。一気に金縛りが解ける。
クイックドローで発砲。弾は炭鉱夫の一人の胴を抜いた。ノイズのようにそいつが消える。
上司がイラついて石を拾って投げたとたん、一斉に奴らが襲いかかってきた。
射撃を続けるも、猛烈な突進に狙いが付けられない。
もし、霊体と生きた人間が重なることがあれば、それはすなわち憑依されるということになる。

冗談じゃない。私は最後の賭けに出た。
奴らは腕を伸ばしまるでゾンビのごとく猛烈なスピードで距離を詰めてくる。
私は銃から弾倉を外し、ガスバルブに指をかけた。
これでダメなら私は結果死ぬことになるだろう。
助かったとしても、奴らの怨みをまともに受けることになるはずだ。
深呼吸をし、ガス放出口を相手に向け待機。
射程は長くないし、チャンスは一度きり。
ギリギリまで引き付け、炭鉱夫に向けてガスバルブを押した。
弾倉から一気に生ガスが吹き出し、奴らに直撃した。
…炭鉱夫共は消えた。膝が崩れ、へたりこむ。終わった。
しかし勝ったわけではない。私は障りに触れてしまったのだ。
埋められた人間の憎しみは深く、もはや悪霊を通り越して悪鬼と化していた。
連れてこられたとはいえ、私は禁忌を犯したことになる。
人間には、踏み込んではいけない領域があると、改めて思い知らされることとなった。

朗読: 思わず..涙。

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