桃の香り

これは私が小学校の低学年だった頃に起こった出来事です。

私は小学校低学年のとき、休日の夜はよく父と一緒にお風呂に入っていました。
父は職場では上司にも臆さずに意見を述べたり間違いを指摘できる、とても真面目な人だったそうです。
それによって周囲から疎まれるようなことはあまりなく寧ろ慕われていたので、
私も幼い頃から父の同僚と遊びに行くことはよくありました。

そんな真面目な父ですが、家ではおっとりしておりイタズラをするのが好きでした。
そんな父からよくされたイタズラがあります。
それは一緒にお風呂に入った際、私が頭を洗っているときに
湯船に浸かっている父が私の背中に冷たいボディソープや水を垂らすというものです。
私はいつもそれをされると大声で叫んでいました。

ある日のこと。その日も私はお風呂に入っていました。
目を瞑り鼻歌交じりに頭を洗っていると、急に背中を冷たくトロッとしたものが伝っていきました。
「冷たっ!ちょっとパパっ!」といつものように声を上げ、パッと湯船を見ました。
しかし、誰もいません。私は唖然としました。
背中に触れると確かにボディソープが手につきました。
天井からの水滴だと思う人も多くいると思います。
では何故ボディソープと分かったのか。
それはその時我が家で使っていたボディソープは桃の香りのするものだったからです。
私は今でも大半の果物が苦手で、特にその時使っていた桃の香りのするボディソープは臭いが強く、とても嫌いだったのです。

冷静に考えるほど怖くなり、お風呂を飛び出して素っ裸のまま母のいるキッチンへ向かいました。
そしてうまく呂律も回らないまま母に今の出来事を話しました。
母は「なんじゃそりゃ、別に怖くないじゃんか」と軽く笑い、何事もなかったかのように夕食の準備を再開しました。

以前、私が投稿した話にも書いたのですが、母は霊感があり変なものも見たことがあります。
そんな母からするとこの時の私の体験は大したことではないのかもしれません。
しかし、これは私が生まれて初めて体験した奇怪な出来事です。
今でも桃の香りのするボディソープが家で使われその匂いを嗅ぐたびに、ふとこのことを思い出します。

朗読: 小麦。の朗読ちゃんねる

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