お爺ちゃんの小言

二十歳になる息子から聞いた話。
あまり怖くないかもしれませんが聞いてください。

息子が反抗期真っ盛りの高校生の頃、よくお爺ちゃん(義父)宅のテレビを占領して、
友だちと通信できるタイプのゲームをしながら、歓声をあげては楽しんでいました。
私はゲームには詳しくありませんが、銃で大量に人を殺しながら進むというリアルな描写のもので、
母としては眉をひそめながらも黙認しておりました。
息子は、お年玉で買ったと思われるマイク付きヘッドフォンのような通信機器をいつも使っていました。
はたから見たら、テンション高らかにひとりで喋り、大盛り上がり。滑稽そのものです。
そんな姿に呆れたお爺ちゃんが、苦笑いしながら何度も
「もうやめなさい」「テレビ独り占めするな」などと
横からいろいろと小言を言うのが、見てて微笑ましかったのを覚えています。
お爺ちゃんの機嫌が悪い時などは、本気の喧嘩になったりもして、
悪態をつく息子に「ワシが死んだら化けて出てやるからな!」と、
孫相手に本気か冗談か分からない口調で怒鳴っていたことも何度かありました。

そんなお爺ちゃんが、ある大雪の日に突然亡くなってしまいました。
元々心臓が悪かったのに、ひとりで雪かきをして発作を起こし、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。
私たち夫婦がやってあげればよかったと、悔やまれてなりませんでした。
葬儀も終わり何週間か経ったあと、何かの用で私たち家族が夜遅くまで出かけていたことがありました。
家族と出かけるのを嫌っていた反抗期の息子だけは、また通信の約束があるからと、ひとり家に残り、
悠々自適に友だちとの通信ゲームを楽しんでいたようです。

ここからが息子談です。
【 夜10時過ぎてたかな。いつものようにマイク付きヘッドフォンを装着して、
怒る家族いねぇしワイワイと楽しく通信ゲームしていたら、
友だちが一瞬、間を置いて「おい○○(息子の名前)、さっきから横で誰が喋ってるんだ?
今日たしか、お前ひとりだって言ってなかったか?」 と聞いてきたんだ。
「えっ、何か聞こえる?俺全く何も聞こえないけど…」と
ヘッドフォンを少し浮かせて聞き耳を立ててみるが…何も聞こえない。
俺がそう言うと、友だちは
「何て言ってるのか分からないけど、さっきからずっと男の声でボソボソ聞こえるぞ」と言う。
「え、怖っ!てか、何かの雑音じゃね?それとも電波が混線してるとか?」とゲームそっちのけで軽く審議になったが、
自分は聞こえないのに友だちだけが聞こえるというのがとてつもなく嫌な感じだった。
そもそも、このヘッドフォンに付いているマイクは、余程口を近づけなければ音声を拾えないものなのに…
唐突に、爺ちゃんの「化けて出てやる!」が頭をよぎった。
その瞬間ゾッとして、ガバッと座り直し、「おいやめろや!怖いやんけ!」と無理やり笑い合ったが、
もう怖くなってしまい、俺はテレビ画面に反射した自分の周囲や背後の部屋の様子さえもまともに見れなくなった。
もうゲームどころじゃない。
なぜなら、テレビ画面がシーンによって一瞬黒くなった時に、
反射する自分の姿に重なるように、何か自分以外の黒い影が見えた気がしたかもしれないけど多分気のせいだ、何も見てない、何も見てない…
だがやはりこのマイクがボソボソ言う音声を拾うということはつまり、
自分の顔のすぐ近くにソイツの顔があるってことだよな…
と気づいてしまってからはもう、友だちさえそっちのけで叫びまくって恐怖を紛らわせていたんだ…。】

程なくして私たち家族が帰宅し、息子はこれ幸いと、上記の恐怖体験をまくし立てるように話してきたのです。
話を聞いた私たちは
「ほーら!ゲームばっかりしてるからお爺ちゃんがまた小言を言いに来てたんだよ!お爺ちゃんだと思えば全然怖くないでしょ!」
と笑い飛ばしてみせました。
が、どういうわけか息子は本当に怖かったらしく、それ以来反抗期も薄れ、
家にひとり残ることはせず、ムスッとしながらも家族で一緒に出かけるようになってくれました。
あの小言が、本当に「爺ちゃん」だったのかは、今でも不明ですが…。

朗読: 花菜の朗読

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