私が四年前に体験した話です。
当時私は大学生で、都内の某大学に通っていました。
大学の近くにマンションを借りていたので、行き帰りも簡単でした。
ある日、その日の全ての授業を受け終え、マンションまでの短い帰路についていると、背後から異様な視線を感じました。
ドロッ……というか、ザラっ……というか……何だかとても嫌な雰囲気でした。
歩いても歩いてもその視線は付いてきます。心なしか荒い息遣いも聞こえてきます。
さらに耳を済ますと、その人のタタッ……ッタタッ……という独特な足音も聞こえてきました。
私の後をついてきてる!
怖くなった私はそこから走ってマンションへと向かい、玄関のドアを開け、急いで中に入り鍵を閉めました。
あまりにも怖かったため、私は玄関にへたり込んでしまいました。
閉めたドアを背に、心臓をバクバクさせながら「さっきのはなんだったんだろう。」と思っていると、突然「ハァァアぁあ……」という声がドアの外から。
その声の主は私の家のドアポストをガタガタボタボタボタと触った後、急いでどこかへと走り去って行きました。
ドアポストからはなんだか生臭い香りがします。
恐る恐る開けてみると、そこには大量の魚の頭が入っていました。
生の物もあれば、焼いて黒焦げになった物もあります。
サンマ? やアジ? といった物もあれば、ちょっと変わった熱帯魚のような頭もありました。
私は怖くなり、当時付き合っていた彼氏に、急いで連絡しました。彼氏はすぐ私の元に飛んできてくれました。
すごく心配してくれて、その日は一緒に寝てくれました。
次の日講義を休み、彼氏と一緒に警察署へと行きました。
警察の方に昨日あった出来事を話すと「あぁー。そうですか……。あ〜……」と何かを知っている素振りをします。
「あの……? なにか?」と尋ねると、「いやぁ〜……実は」と、そこから色々と教えてくださりました。
当時私が住んでいたマンション近辺で、よく似た事件が起きていたらしいのです。
手口は一緒で、「いきなり見知らぬ人に追いかけられ、家のポストに魚の首を入れられる」
犯人はまだ捕まっていないのだとか。
警察も懸命に犯人を追っていますが、捜査状況は一向に進展していないのだそうです。
ただ、何回かポストに魚の首を入れた後、犯人は飽きる? のか、もうそういった行為はしなくなるらしく「だから今回も大丈夫だとは思いますが……。でももし……、もし、また何かありましたらご連絡いただけますか? すぐあなたの元に駆けつけます。勿論近所の警戒強化もしっかりさせて頂きます。まあ…大丈夫ですよ!」と。
すごく不安だった私は「大丈夫」という言葉を聞いて物凄く安心し、「ありがとうございます! ではよろしくお願いします!」と言い、付き添ってくれた彼氏と安心しながらマンションへと帰りました。
そして家に入り電気を付けると、対面の窓に、つい先ほどまでぺったりと顔をつけ、部屋の中を覗いていたような顔の油のシミが、クッキリと付いてました。
私はそれを見て思わず絶叫。彼氏も「うわっ!」と叫んでいました。
1階に住んでいたので侵入されやすい場所だとは思っていましたが、まさか本当に敷地内に入ってくるなんて。
警察に聞いた情報の中でも、敷地内に入ったケースはなかったので、当時はめちゃくちゃ焦りました。
まさかと思いポストを確かめると、魚の切り取られた首が、また大量に入っていました。
警察にすぐ電話し家に来てもらって、色々と見て頂きましたが、「これはちょっと今までのケースとは違うなぁ」と呟いていました。
警察は「警戒を強化し、犯人を必ず捕まえます!」と言ってくださりましたが、私はこのままここに住むのはマズイと思い、次の週、とりあえず実家に帰り、そこから学校に通うことにしました。
あの件から一ヶ月ほど経ったある日、両親と話し合い、マンションを引き払う事になりました。
両親と一緒に自分のマンションの部屋に行きました。
ポストを確認しましたが魚の頭は入ってなく、窓にも油のシミは付いていませんでした。
そのあとは何事も無く必要な手続きを済ませ、荷物も業者に運んでもらい、その一件は終わりました。
それから四年後。私は大学を卒業し、 上京して、社会人になりました。
当時付き合っていた彼氏とも別れ、毎日忙しない日々が続いています。
最近同僚の1人が「ドアポストに変な物が……」と私に相談して来たので、この話を思い出し、今書き起こしてみました。
同僚のポストに入っていたのは、「生臭い焦げた何か」だったそうです。