赤チョーク青チョーク

中学生の頃の話。
私の通っていた中学校には〈消えないチョーク〉という噂があった。

赤と青のチョークが、学校のどこかにそれぞれ一本ずつあるというもので、噂の通り、そのチョークで書かれた事は絶対に消えない。
特に、赤いチョークで願い事を書くと必ず叶うともいわれていた。
ただし、願い事は一息で書くこと。途中で考えたり、躊躇ったりしてはいけない。
もし、願い事を取り消したい時は青いチョークで逆のことを書く。
だから、私が通っていた中学校ではチョークがあると、とにかく願い事を書くのが流行っていた。
黒板に一息で書いて、黒板消しで消してみる。
消えなければ願いが叶うと思って。
私も放課後になるとマリやフウカ達と一緒に願い事を書いた。
「胸が大きくなりますように」
「男子が静かになりますように」
「次のテストで百点取れますように」
「お母さんが帰ってきますように」
黒板に書かれたたくさんの願い事は、どれもみんな消えてしまった。

ある朝、私が登校して教室に入るとちょっとした騒ぎになっていた。
黒板を見ると赤い文字でこう書かれていたからだ。
「コウスケが私を好きになりますように 深央が死にますように」
深央というのは、私の名前だ。読んでゾッとした。
誰が書いた犯人か、考えなくても分かっていたから。
私はコウスケとは小学生低学年の頃から仲良しで、それを妬んでいる女子が一人居たから。
周りを見渡してもその子は居なかった。私は怒りながら黒板消しで黒板を拭いた。
でも、字は消えなかった。
慌てて何度も何度も力を入れて拭いたけど、文字は消えるどころか、かすれもしなかった。
(まさかこれ、本物の赤いチョーク?)
そう考えたら急に怖くなってきた。 膝の力が抜けてその場に座り込んだ。
悲しいわけじゃないのにショックで涙が出てきた。
だってもし本当なら、青いチョークが必要なのに、それがどこにあるのか誰も知らなかったから。
先生もすごく驚いていた。

その日のうちに黒板は別のものに取り替えられた。
字が消えないし、「死にますように」なんて書かれていたから。
マリもフウカも、他の友達も、みんな青いチョークを探してくれたけど結局見つからないまま、私達は中学校を卒業した。
え? 犯人? どうしてるかなんて知らない。
その子、その日から学校に来なくなったから。
あれから随分経つけど、私はまだ生きている。
ただ、あの日からコウスケくんも学校に来なくなっちゃったんだよね。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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