地の底より

私の知人、Aさんが体験した話です。

Aさん家族は大の旅行好きで、それが毎年の楽しみでもありました。
ある年、撮った写真を現像してからそれをAさんの母が確認したところ、Aさんの右腕が写っていないことに気がつきました。
しかもAさんが写っている写真全てです。
ふと寒気を覚えたAさんの母は地元で有名なお寺へAさんと共に向かいました。
写真を見るなり和尚さんは、 『家族や親戚に右腕が不自由な人はいませんか』 と尋ねてきました。
すぐにAさんの母は思い付かなかったのですが、
親戚に電話で聞いてみると、右腕が生まれつきない人が、遠い親戚に一人いることがわかりました。
そして、あろうことかその方はつい先日亡くなってしまったとのことでした。

それを聞いた和尚さんは納得した表情を見せた後、厳しい口調で言いました。
『その方が親戚の中で一番純粋で優しいあなたの息子さんに縋り続けているんですよ。
写真のその方の目は吊り上がり口元は歪んでいて、
左手だけにもかかわらず写真ごしでもわかる程に息子さんの腕を締め上げています。
自分がずっと欲しいと願っていた右腕を奪わんとしているんですよ』と。
Aさんの母が親戚の人に改めて電話口で話を聴くと、供養らしい供養がきちんと行われていなかったとのことでした。
Aさんの母がその親戚に頼み込んだことで、どうにかちゃんとした供養をしてもらえることになりました。
供養はそのお寺で行われた、それ以降写真を撮ってもAさんの腕が写らないことはなくなりました。

ですが、これには後日談があるんです。
それからひと月も立たないうちにそのお寺は取り壊されてしまったのです。
お寺の関係者の方に話しを聴くと、
供養が終わってから数日後、和尚さんは、右腕に顔が見えると錯乱状態で周りに訴えることが続いたそうです。
お弟子さんが腕を見ようとすると、人間とは思えない力で暴れてしまうとのことで、
半強制的に病院へ入院することになりました。
しかしお医者様に診てもらっても、脳のどこにも異常がなく原因不明とのことでした。

それから和尚さんの状態はみるみる悪化し、
最後は『あいつが墓から私の右腕に乗り移って、ずっと監視しているんだ』と告げた後、突然の心肺停止で亡くなりました。
この一件でお弟子さんたちはすっかり怯えてしまい、お寺を畳むことにしたそうです。

『右腕』
もしかしたら、あの霊の怒りは収まっておらず、今もまだお墓の下から虎視眈々と誰かの右腕を狙い続けているのかもしれません。

朗読: 朗読やちか

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