暗闇が怖かった

 霊感体質だった私が初めてはっきりとみたであろう幽霊の話です。

 中学2年の頃、田舎に住んでいた私は個人経営の小さな塾に自転車で通っていました。
 田舎で電柱がほんの数本しかなく真っ暗な道を家から塾までの距離3km程を通ってましたが、そのたった3kmが私にはとても怖かったのです。
 それはこの頃から暗がりでよく分からない人に遠くの方から名前を呼ばれたり、部活帰りの下校中に前からくる人に挨拶したら友人に『おまえ今誰に挨拶した?』などと言われていたからです。
 見えない何かに呼ばれ、更に挨拶するということがとても恐怖になっていました。 だから塾に行く時にはイヤフォンをしており、当時はまだ自転車の規制も厳しくなかったため、ウォークマンで気を逸らして塾に行くのが普通になっていました。

 そんなある日の塾帰り、ウォークマンを装備して暗闇を自転車で進むと確実にイヤフォン越しから『〇〇くん、こっちきて』と女の人の声がしました。
 塾の女の子の友達が後ろまできて、忘れ物か何かを届けてくれたんだと思い自転車を止めましたが誰もいません。
 気のせいにしてはリアルで、恐怖が増して急いで帰ろうと田んぼ道を駆け抜けます。
 草陰から感じる誰かの目線、ずっと名前を呼ばれているんじゃないかという恐怖、思春期の臆病な妄想と言ってしまえばそれまでですが、もう一度イヤフォン越しに『おい、〇〇、お前聞いてんのか?』と声が聞こえました。
 恐怖が限界まで達して、早く家の灯り、家族の顔が見たいと心で願いました。

 家はもう目の前、母親の白い軽自動車が見えます。するとその車の陰から母がでてきました。
 一気に湧き上がる安心感と今あったことをすぐ伝えたいという思いから『母さんただいま!』と言うと母親が……というより実際には母親の姿をした白い衣を着た貞子みたいな女が『おかえり、〇〇くん』と言ってきたのです。
 母親でないと分かった瞬間に自転車を小屋にしまわず放り投げ、一目散に玄関に向かって戸を閉めようとしたとき、上からさっきの女が降ってきましたが、構わず戸を閉め鍵をかけました。
 古い家の戸なのでモザイクがかかったガラス張りの引き戸の奥には確実に女がいるのが分かり、怖いはずなのにそこから逃げれない私でした。
 女はしばらくして中に入れないのが分かったのか暗闇に溶けていきました。

 でも個人的にこの話で一番怖いのはこの初めての経験以降のことで、何度かその女には呼ばれるのですが、女の呼び声を無視すると『返事しろ、〇〇、今度は母親になって家に入るぞ』と脅しを言ってきたからです。
 一番ゾッとしましたが当然無視しました、幽霊と話してもろくなことないですから。

朗読: 小麦。の朗読ちゃんねる

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