後ろのSさん

ある朝、出張のために早起きしたら、後ろの家のSさんがベランダに洗濯物を干していた。
朝の5時半である。

聞いた話では、Sさんはご主人と子供2人の4人家族で、子供達に美味しいご飯を食べさせたいと朝に米をとぎ、1時間おいてスイッチを入れているらしい。

子供は、幼稚園の男の子と小学4年生の女の子の2人だが、ある日、その男の子が車にいたずらをしていたので私が注意すると、いきなり私の髪をつかみ、はなさなかった。

咄嗟のことに、私も驚いて大声を出したら、Sさんが家の中から飛び出してきたが、おろおろするばかりで止めさせようともしなかった。
仕方がないので、私は自力でなんとか脱出したが、Sさんからの謝罪の言葉は無かった。

この件があって、私はなるべくSさんとは関わらないようにしようと思っていたが、ある大雪の降った朝、出勤のために外に出るとSさんが雪かき用の大きなスコップを持って帰ってきたので「おはようございます」と挨拶すると、かなり疲れている様子。
「大丈夫ですか」と聞くと、なんと通学・通園する子供達の前を、学校や幼稚園まで雪かきしながら進んで子供達を送り届けてきたとのこと。
雪道を気を付けて歩くことも大切な勉強なのではと思ったが、Sさんは私よりもずっと年上の方だったので何も言わなかった。

子供中心という方はたくさんいると思いますが、Sさんの娘さんは、いつでもお嬢様風のかわいい服でかわいい靴をはき、私が「こんにちは」と挨拶しても必ず無視。
それに対してSさんは、いつもヨレヨレの服を着ていて、とても地味な感じだったが、外で会うと話が長く止まらない。

逃げ出すのに苦労する。
しまいには、私の家にも来るようになった。

聞いた話では、子供達の習い事もいっぱいあって、Sさんがいつも送り迎えしているらしい。
お金の掛け方も、子供中心のようだった。

ある日、仕事が休みで家にいると、急にSさんから電話がきて、呼び出されるままSさんの家に行った。
「子供が転んで、鼻血が止まらない」とのこと。
玄関でチャイムを鳴らすと、出てきたSさんがかなり動揺していて、案内されるまま初めてSさんの家に入った。

凄かった。本当に凄かった。
外は普通なのに、中はゴミ屋敷。

玄関から始まり、廊下には歩く隙間がまったくないほど、たくさんの物が散乱し、部屋の中、キッチンにも山のように、ゴミなのか、生活用品なのか区別がつかなかった。
テーブルの上にもいろいろな物が山積みされていて、いったいどこでごはんを食べているのか。

子供達のことを思ったら、まず掃除した方がいいんじゃないのかと思ったが、ここまでくると、掃除できない人って、本当にいるんだと納得させられた感じだった。

鼻血の止まらない息子は、ゴミの中のキッチンのイスに腰掛け、上を向かされていた。
Sさんは「心配だから、救急病院まで車で連れて行って欲しい」と言ってきたが、私は、内心少し考えて

「病院まで乗せていきますが、帰りはタクシーで帰って来て下さい」とお願いした。

本当に関わりたくなかったが、駐車場に私の車があると、いつでもチャイムを鳴らされるようになり、仕方なく家にも上がってもらったが、とにかく長い!帰らない!しかも質問攻め!困り果てていたら、急にご主人の転勤で引っ越すとのこと。
ホッとした。本当に、ホッとした。

それから数か月。
ある日、チャイムが鳴り出るとそこにはSさんが……。
また、戻って来たそうだ。

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