私は子供の頃、リカちゃん人形が欲しかったが、
買ってもらえず、仕方がないので自分で作るようになった。
母が裁縫が好きで、余り布が沢山あったので、
パッチワークのように色々と組み合わせて人形を作っていた。
それはやがてカントリードールへと移行して、
主に木や布の組み合わせで人形を作るようになった。
デザインもオリジナルで、もちろん型紙を作り、同じ人形を何体かずつ作り、
洋服のデザインを変えて雰囲気を変えたりした。
型紙はデザインごとに変わるので、どんどん増えて、書類ケースがいっぱいになった。
人形にも愛情を込めたが、型紙にも私の想いが詰まっていた。
人形達はフリーマーケットで販売したり、個人的に受注して販売したりしていたので、
自分の仕事もあり、結構忙しかった。
そのお客様の中に、Aさんという人がいて、
私の人形をとても気に入って頂き、5体ほど種類を変えて、買って頂いた。
ある時、Aさんから電話があり
「私も自分で人形を作りたいから、型紙を売って欲しい」
と言われた。
しかし私の人形は、人形本体も洋服もオリジナルだったので、
型紙は販売できないと丁寧にお断りした。
しばらくして、ある日仕事が休みの日に、突然Aさんが訪ねてきた。
「人形の型紙の作り方を教えて欲しい」
と言うので、私は快く了解し、Aさんを家の中に招き入れた。
私の型紙を見せて、キッチンにお茶を入れに行くと、すぐに
ビリビリビリッ!
ビリビリビリッ!
と激しい音が聞こえてきた。
私が慌てて部屋に戻ると、Aさんが私の型紙を次から次へと粉々に破いていた。
その顔はまさしく狂った人の半笑いの顔で、私は怖くて、ただ見ていることしか出来なかった。
Aさんは、箱の中の型紙を全部破り終わると、スッと立ち上がり、黙って出て行った。
それ以来、私は人形を作れなくなった。
型紙がなくなったからではなく、
あの時のAさんの半笑いの顔が目に焼き付いて、未だに忘れられないのだ。
狂った人は、意外と近くにいる。