数年前に体験した話です。

当時僕は営業の仕事をしていました。

県内外を回っており、昼休憩はいつも眺めのいい場所を探して、コンビニで買った昼ご飯を食べる、という毎日。

その日も、眺めのいい山頂の駐車場へ車を停め、目の前に広がる海を見ながら昼食をとっていました。

場所柄なのか、曜日のせいなのか、僕以外に車はなく、駐車場内にも木の茂みの前にトイレがあるのみで他には何もありません。

昼食をとり終え、シートを少し倒して携帯を見ていると、駐車場内は車が一台入ってきて、隣にワンボックスカーが停りました。

“こんな広いのにわざわざ隣に停めるなよ…” とは思いましたが、海が目の前で見える位置が僕の車の辺りしかないので、仕方ないか、と思ってまた携帯へ目をうつしました。

すると隣のワンボックスカーから、60代くらいの小綺麗なおじさんが降りてきて、その車の助手席側、僕の右斜め前へ立って海を眺め始めました。

そのおじさんは「あれは何島かな…?」とか何とか1人で喋っています。

“ゆっくり休憩も出来ないなあ…そろそろ移動するか” と思い、その前にタバコを1本吸っておこうと思って車外へ出ました。

おじさんから離れた場所で一服して、さあ車へ乗ろうかという時に

「お兄さん、あの島は何島かわかるかい?」 と話しかけられました。

「いやー、分かりませんねー。」と答えると、おじさんは何やらボソボソと話し始めました。

なにを話しているのかはよく聞き取れませんでしたが、聞き返すのも面倒なので聞いているふりをしていました。

するとおじさんの携帯が鳴り、おじさんは何か話して電話を切りました。

すると開口一番、「大変申し訳ないんだが、少し、娘を見ていてくれませんか?」と意味のわからない発言。

「え?何の話ですか?娘を見る?」と僕が返すと

「はい、ちょっと急用で山の下の方へ行かなければいけなくなって、でもすぐ戻るのでそれまで娘を見ていてほしい。」と。

すると後部座席のドアが開き、中から女性が出てきました。

とても幼い見た目をした女性。

上はグレーのトレーナーに黒の制服のような短めのスカートに長いハイソックス。

だが今思うと、多分年齢は20代後半〜30代くらい。

その女性がニコニコこちらを見ている。

少し障害を持っているのだろうな、と直感的に察する僕。

「いや、困ります。僕も仕事中なので次のアポもありますしもう行かないと。」と強めに断りました。

するとおじさんは、「そこを何とか!ね!頼むよお兄さん!ね!」と言いながら車に飛び乗り、とうとう女性を置いて走り去って行きました。

「うそだろ…どーすんのよこれ。」と呆然とする僕。

尚もニコニコしている女性。

“警察へ連れていこうか…でも勝手に連れ出すとあのおっさん誘拐うんぬんとか言ってきそうだよなあ…参った…”

とぐるぐる考えていたら、女性が初めて口を開いた。

「遊ぼ!一緒に!」

突然の遊ぼう発言に「いや、君のお父さんどうなってんの。遊んでる場合じゃないよ…」と返す僕。

すると女性が僕の手を取り、「早く!こっちで遊ぼう!」とすごい力で引っ張っていかれる。

「痛いから!ちょっとどこ行くんだよ!」と尚も引っぱられる僕。

引っぱられた先は、木の茂みの前にあるトイレの裏。

要は、表から人目につかない唯一の場所。

「ちょ、ちょっととりあえず落ち着こう!な?」と女性を説き伏せると、

「ね、遊ぼう?」と言って、掴んでいる僕の手をスカートの中へ持っていかれた。

女性は下着を履いていなかった。

パニクった僕は女性の手を渾身の力で振り払い「何やってんだ!冗談じゃねえぞ!」と怒鳴った。

しかし女性はまた僕の手を掴む。

その時、何となく右方向から視線を感じて、抵抗しながら茂みの中へ目を凝らすと、 カメラのレンズが見えた。

その後ろに年配の女性が隠れている。

やられた。

罠だ。

僕は一気に恐怖が襲ってきて、女性の手を再度振り払い、車まで猛ダッシュして、急いでその場から逃げた。

山道を心臓がバクバクいうのを感じながら車で降りていると、対向車線の路肩へ停まっているあのワンボックスカーが見えた。

恐怖と焦りとで死にそうになりながら、通り際に運転席を見ると、あのおじさんが中指を立てて舌を出してこっちを見ていた。

その後追いかけられるとかはなかったが、その日の午後のアポは全て断わり、とりあえず会社へ帰った。

とりあえず起きた出来事を会社の上司へ報告。

社用車で会社名がばっちり書いてあるタイプだったので、何かあってはいけないと思ったからです。

警察へ行こうかと話していましたが、本当に信じてもらえるか、逆に自分が疑われないか、等々考えた結果、通報はしなかった。

後日知り合いへその話をすると、その界隈ではたまにあることらしいです。

目的が何なのかは分かりませんが。 これが僕の体験した話です。

朗読: モノクロDEVICE
朗読: 繭狐の怖い話部屋

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