どぞのうげ

友人の高田は怖い話が好きだった。 おかげで仲間と集まれば怪談話をしたがる。
普通はみんな、そんなに怖い話を持ってはいない。
毎度毎度新しい話があるわけもなく、結局は高田が方々で仕入れた怖い話を披露した。
高田はネットでも怪談収集をしており面白いサイトを見つけたと話してくれた。
それは怪談投稿サイトだった。
それから高田はそのサイトの話ばかりするようになった。

ある日、高田に喫茶店に呼び出された。

「例のサイトに『どぞのうげ』って話があるんだけどさ、読む度に話が変わるんだ。他の話はそんな事ないのに」

高田は少し眉根を寄せ神妙な面持ち。

「投稿サイトだろ? なら投稿者が編集してるだけじゃないのか」

俺はコーヒーを一口飲むとそう答える。

「いや、そう言う感じじゃないんだ……それにさ、笑うなよ? その話、俺の話をしてるんだ」
「はあ? 自意識過剰だろ、さすがに」
「じゃあ、ちょっと見てくれよ。見たらわかるって」
「えっと、何て話だっけ?」
「どぞのうげ」
「聞いたことない言葉だな」

俺はいつものようにスマホでそのサイトを開く。

「……そんな話ないぞ?」
「いや、あるって!」
「なさそうだけど……」

スマホをいじっていると、高田が自分のスマホを俺の目の前に突き出してきた。

「これ読んでみろよ! ほら!」
「えっ、あれ? いや……」

俺が驚いて怪訝な顔をしていると、高田は自分のスマホを俺の目の前から外し画面を見た。

「ほら、あるだろ、どぞのうげ。やっぱりあるじゃないか」

高田はヘラヘラと笑いながら画面を見つめ始めた。
在り来たりな表現だけれど、それはまるで何かに取り憑かれたようだった。

「あ、また変わった! ……俺、見られてるわ」

高田がポツリと呟いた。
そして急にスマホをポケットに押し込むと俺を置いて立ち去った。
俺はその場に一人取り残された。 それが高田と会った最後だった。

高田が何を見ていたのかはわからない。
でも確かに高田の見せた画面には真っ黒な画面に真っ赤な文字で【どぞのうげ】と書かれていて、その後には意味不明の文字が並んでいた。
見たことがない画面だった。
ちなみに高田が見ていたサイトはここだ。

なぁ、今もどこかで見てるか? 見てるんだろ? ……ごめんな

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