てるよ

 これは知り合いのSさんが大学2年の時に友人と心霊スポットに行った後に体験した出来事だ。

 大学やアパートのある地域から少し離れた場所にあるトンネルは、地元では有名な心霊スポットだった。そこに友人3人と出掛けた。
 女の子の霊が出るだとか、交通事故で亡くなった男性のうめき声が聞こえるだとか、話はどこにでもありそうなモノだったが、雰囲気はかなりある。
 中でも【見つけた】と書かれた大きな目の落書きは、とても気持ち悪く感じられた。
 しかし結局何も起こらなかった。

 その翌日、深夜に携帯電話が鳴った。 非通知の着信ではあったけれど、特に気にもせず電話に出た。
 大学かバイト関係の誰かだろうと思った。ところが電話は無言。
「もしもし? もしもし?」
 何回か問い掛けるも反応はない。いたずらかと切ろうとした時、微かに声が聞こえた。

「てるよ……ってるよ……ってるよ……」

 子どもの声、でも時々スロー再生をした時のような低い声も混じって聞こえる不気味な声だった。 慌てて電話を切る。
 時刻は0時過ぎ。
 昨日心霊スポットに行っていた時間だと気付いたが、「関係ない、関係ない」と自分に言い聞かせ頭から布団をかぶった。
 寝苦しく、布団の中の暗闇すら怖かったけれど、そうするしかなかった。

 次の日もまた同じ時間に電話が鳴った。 恐る恐る電話に出る。

「一番目はタ……一番目はタ……一番目はタ……」

 やはり微かに声がする。同じ言葉を繰り返しているようだ。 電話を切る。電話を持つ手が震えていた。
 そのまた次の日も電話は鳴る。

「二番目はカ……二番目はカ……二番目はカ……」

 更に次の日も。

「三番目はユ……三番目はユ……三番目はユ……」

 心霊スポットに一緒に行った友人に確認したところ、そんな電話は掛かってきていないと言う。
 トンネルで見た不気味な落書きも友人達は知らなかった。
 そんな事があったとSさんは語った。

 私は気になって「それでどうなったんです?」と尋ねた。
 Sさんは「それ以上は電話に出なかったよ。それに携帯電話も番号も変えた」と答え、こう付け加えた。
「最初の電話【知ってるよ】って言ってたんじゃないかな。俺の名前タカユキだからさ」
 Sさんは今でも非通知の電話には出ないようにしているそうだ。

朗読: モリジの怪奇怪談ラジオ


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