先行きを案じて

 朝、絶叫を聞いて目が覚めた。

「それが母の声だと気がついたのは数秒後。寝起きの頭がようやく回り出してからでした」

 当時まだ小学生だった雄吾さん。 与えられたばかりの自室から、あわてて廊下へ出る。
〈ドン!ドン!ドン!〉
 リビングから鈍い音。 繰り返し、聞こえている。 恐る恐る戸を開けた。

「父が母に馬乗りになっていて……」

 ガラス製の大判灰皿で、母の顔面を何度も叩きつけていたという。
 顔は変形して、もはやどこが目で鼻か分からず、いつも着ている花柄のエプロンでかろうじて母と認識できた。
 父と目が合う。
 目についた返り血を指でぬぐい捨て、灰皿を持ったままこちらへ近づいてくる。
 そこで目が覚めた。

「寝汗びっしょりで…」

 現実でなく、心底安堵したという。
 キッチンに入ると、母がいた。
 夢の話を興奮気味に伝えると、
「私もお父さんに殴られたの!」

 母は夢の中で父と口論になり、家を出て行こうとすると、後頭部に衝撃が走ったという。
 馬乗りにされて、何度も何かで殴られたところで目が覚めたらしい。
 そこへ新聞を持った父がやってきた。 一連を話す。

「俺も見たよ!寝汗びっしょりでさ」

 父も夢で母を殺めたという。
 しかし、噛み合わない点が一つ。
「知らない人がそれを見ていた」という。
 眼鏡をかけた高校生くらいの男で……と言いかけたところで、父は何かに気が付いたように、目を見開いて雄吾さんを指す。

「あれ、大きくなったお前だ!」

 あれから七年が経つ。 雄吾さんは高校生になった。
 この所、両親の不仲が著しい。

「予知夢にならなければいいのですが」

 雄吾さんは頭を抱える。

朗読: りっきぃの夜話
朗読: かすみみたまの現世幻談チャンネル


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