白昼夢

 平日の真っ昼間に出張の為、新幹線に乗っていた。
 二人掛けの座席が進行方向に向かって左右に並ぶ車内には私以外にも乗客がちらほら。
 平日の昼間で混まない事は予想されたが、余計な所で疲れたくはなく、私は指定席を取って座っていた。

 しばらくは窓の景色をぼんやり眺めていたが、トンネルが続くようになり買っておいた雑誌に目を移した。
 それでも頭にあるのは現地での視察や打ち合わせの事で、やや気が重い。天気が良いのだけは救いだ。
 ペットボトルのお茶に口をつけ、少し寝ようかと思った時だった。
 突然頭に映像が浮かんだ。
 それは新幹線車内の様子。だが私のいる車両ではない。
 私に実際見える景色ではなく、頭に直接浮かび見えている。いや、見させられているのだろうか?
 とにかく奇妙な事にその映像は勝手に頭に流れ込んでくるようだった。

 それは新幹線の車両真ん中通路を長い髪の女性が歩いている映像だった。
 ただ、その女の姿があまりに異様なのだ。
 まず頭頂部から右側頭部がえぐれたようにない。まるで頭が半分ないような状態。
 そして顔を左にカクンと折ったように曲げている。
 顔は無表情だが口はアーッと叫んでいるかのように開けられている。
 服装はブラウスにスカートと普通。
 そんな女性がフラフラと通路を歩いている映像が頭に浮かんで離れなくなった。
 女は映像の中で歩みを止める事なく歩いている。
 車両が変わる。女は歩き、ひたすら前に進む。車両が変わる。

 私は嫌な予感がしてきた。
 これはこの新幹線で実際に起きている映像なのではないだろうか? このままでは女が私のいる車両にやってくるのではないか?
 そしてそれは明らかにこの世の者ではないだろう。
 馬鹿げた考えではあるが、私は本当に怖くなった。
 真っ昼間の明るい車内。周りに人もいる。いざとなったら周りの人に助けを求めよう。一人じゃないんだ、何とかなる。
 そう自分に言い聞かせても心臓はバクバクと鳴り、呼吸は浅く早くなる。
汗が頬を伝った。

 そして映像の女性がまた車両を移ろうと扉を開けた瞬間、車両前方の扉も開いた。
 私はヒッと喉で悲鳴をあげた。 が、扉を開けて入ってきたのは中年の男性だった。
 私は一気に気が抜けて、心の中で「おっさんかいっ!」なんてツッコミを入れ、本当に安堵した。
 頭に浮かんでいた映像も消え、一体何だったのかと苦笑する。
 白昼夢。 そう、白昼夢だったのかもしれない。
 それとも私は本当に一瞬眠ってしまっていたのだろうか?
 おじさんはキョロキョロした様子で通路を歩いてくる。
 そして私の座席の横を通り過ぎようとした。
 そのおじさんの背後……何かいた。
 それは腰にしがみつくあの女だった。

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