猫ドア

 我が家は数年前から猫を飼っていて、いつも少しだけドアを開けているか、ドアを閉めているとカリカリとドアをかいたり、鳴き声で知らせてくるので廊下とリビングを繋ぐドアを開けてあげたりしていました。
 しかし熱い夏場や、寒い冬場に冷暖房をつけるため、ドアを半ドアにするわけにいかず、不便だなということで 2階の廊下と寝室の間、一階の廊下とリビングの間に猫ドアをつけることにしました。

 猫ドアとは、ドアの足元に正方形の猫が通れるほどの穴をくりぬき、猫が自由に出入り出来る猫専用のドアの事です。
 我が家の猫ドアは透明タイプで、廊下側に猫がいると見えるタイプです。
 ある昼間、一人でリビングでテレビを見ていると うちの猫はどれだけ知らない人がいても、他の生き物がいても動じない大人しい猫なのですが シャーっと猫ドアの方を見つめ威嚇していました。
 この子を迎えてから、こんなに威嚇しているのは初めての事でビックリしてしまいました。
 どうしたの?と声をかけても抱き上げても、身体をのけぞらせて猫ドアの方を瞳孔を開きながら威嚇しています。
 なんだか私も気持ち悪いな。と思い、何もないよ〜と、猫と自分を落ち着かせる為にドアを開けて確認させました。もちろん廊下には何もなく ただ、シンとして静寂の中冷たい空気だけが広がっていました。
 内心ホッとしてドアを閉めようとすると、廊下側からグイッとドアを何かに引っ張られた感じがして バタン!と勢いよくしまりました。
 すると猫がキャンっと甲高い声をあげてリビングの隣の部屋に逃げて行きました。
 私は気味が悪くなり、テレビに集中して忘れようとしました。

 それから数日は特に異変もなく、すっかり忘れてしまっていました。
 ある日、子供を寝かしつけた後リビングに降りてきて撮り溜めだ録画を鑑賞していました。 すると、廊下の明かりがパッとつきました。
 廊下の電気は人や物に反応して明かりがつきます。 うちの猫は人懐っこく、私の移動する先にいつもついてくるので (私についてきておりてきたのかな?)と猫ドアに目をやりました。
 すると何か黒い影のようなものが横切りました。
 猫ドアのすぐ上は普通のドアで真ん中の列が磨りガラスになっているタイプなのですが その時の影は、明らかに猫ドアのところだけ横切りました。
 ドキッとして固まっていると廊下ではなく、リビングの隣の部屋から、鈴の音が聞こえ、目をやるとそこに猫が寝転んでいました。
 もう一度猫ドアの方を見ると、もう廊下の灯りは消えていて 反射したリビングだけが映し出されていました。
 とても怖くなり、それからはあまり猫ドアの方を見られなくなりました。

 そして数日後。
 子供を2階の寝室で寝かしつけていると寝室の猫ドアから少し明かりが漏れてきました。
 どうやら、一階の廊下の電気が何かに反応したようです。
 我が家の寝室は、一階から階段を上がって左の廊下のすぐ真向かいです。 ちょうど猫ドアからは、廊下を挟んで階段の1番上が見えている状態です。
 その時、下の明かりがついたと同時に 何かが一階から上がってきている気配がしました。
(どうか、猫であってください。お願いです)心の中で何度も唱えていました。
 しかしあきらかに嫌な雰囲気がしたのです。
 子供を寝かせている体勢はちょうど寝転んでいて階段の1番上が真向かいに見えていました。
  一階の漏れた光が一層その場を不気味にさせています。

 そして、見てしまったのです。正確には少しだけ見えてしまったのです。
 おそらく階段1番上から一段下がった、上から二段目。 髪の毛と額が見えました。おそらく男性でした。
 とても恐ろしく、また、このままだと目が見えてしまうと思いとっさに逸らしました。
 しかし普通に考えて角度的にも、もし万が一不審者だとしても有り得ない角度でした。 一段一段の階段の高さから考えても、あんなに水平に髪と額が見えるわけありません。
 どう考えても、生首でしかありえないのです。
 そこからずっと目を瞑っていると、瞼の裏の明かりが真っ黒になりました。どうやら一階の明かりは消えたようです。
 よかった。やっといなくなったと思いそっと目を開けると 猫ドアに顔が張り付いていました。
 全面に張り付いていたので 光を遮っていただけでした。 思わず叫んでしまい、ひたすら目を瞑って拝みました。
 しばらくすると、下から鈴の音と階段を駆け上がる音が聞こえ 勢いよく猫ドアが開く音がしました。
 そして猫が私のそばに寄ってきて、顔の前で くるまって私を庇うように、視界を遮るように寝てしまいました。

 朝になると、顔は無くなっていました。
 あれからあの顔に遭遇する事も、猫が威嚇する事もなくなりました。この先もない事を今は願うばかりです。
 ただ、未だに夜になると廊下の明かりが ごく稀につくことがあります。

朗読: 怪談朗読 耳の箸休め
朗読: 小麦。の朗読ちゃんねる

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる