タニちゃん

 何年か前にSNSで仲良くなった女の子がいた。
 タニちゃんと呼ばれるその子は、良く配信をしたり作業しながら通話をするのが好きな一人暮らしの子。 いつも「1人は寂しいから常に話してるかテレビをつけてる」って言ってた。
 そのせいか私と通話している時も配信をしている時も、常に話し声や物音がしていたのを覚えている。
 結構派手な見た目(ギャル系)をしているのに身体が弱いらしく、よく寝込んでいたのも記憶に残るなんか不思議な子だった。
 そんなタニちゃんは九州に住んでいるらしく、趣味のイベントが関西で開かれる事をきっかけに初めて会うことにした。

 初めてではないらしいが、その月は色々とイベントが開かれていてイレギュラーな事が重なったらしく、地元人の私におすすめのホテルを聞いてきた。
 当時ルームシェアをしていた友人に許可を取り、私は「友達も居るけどウチに泊まるか」と話を持ち出し、初めは遠慮していたタニちゃんをどうにか説得して我が家でお泊まり会をする事になった。
 どうせならと空港まで友人と迎えに行く旨を伝え、友人と2人で空港へ。 私がしょっちゅう会話をしていたから、声は知っている友人にどんな子かと聞かれたので写真を見せた。
 初めは渋い顔をしていた友人。 あ、ギャル系苦手なのかな? と思いその時はスルーしてタニちゃんを待っていた。

 少し経った頃、他のお客さんたちに紛れて彼女らしき人が出口から出てきた。
 相変わらず金髪で派手な彼女を隣の友人が目を見開きながら喉を鳴らして凝視している。
 ヒュッヒュッと過呼吸程ではないが激しい呼吸をする友人。 タニちゃんには友人の体調が悪いから少し遅れるとメッセージを送り、友人を少し離れたベンチへと座らせた。
「大丈夫?」
「……帰ろう」
 友人はお茶を口の中で転がしたあと真剣な目つきでそう言った。
「え? 待ってるのに帰るの? どうして?」
 多分当時はそんな感じで聞いた。
 元々友人が霊感が強く、たまに生きてるか死んでいるか分からなくなるという事は知っていたので、まさかと思って聞いた。
「アカンの?幽霊的な意味で」
 友人は無言で頷いた。
「相当……やばいと思う。見たことないもん、あんな人」
 途切れ途切れに伝える友人。
 スマホのイラストアプリを立ち上げ、先程の様子を描いてくれた。
 趣味で漫画を書いているだけあってその絵は分かりやすく、彼女の見えたものが写し出される。

 タニちゃんを中心に何人もの人間、崩れた何か、子供、デカい何か(ほとんど不安の種のキャラクターみたいな容姿)。
 その中でも最後に描き足した、中肉中背より少し痩せた女を指差し、「コイツが一番ヤバイ」
 友人は真っ青な顔でそう伝えると「私はしばらく実家戻るから2人で楽しんでおいで」と車の鍵を私に渡してフラフラと歩いていった。
 心配でしたがどちらを選べばいいのか分からず、とりあえず友人が実家に迎えの連絡をした事を確認してタニちゃんの元へ向かった。

 そこからは見えない私には良く分からなかったが、何となくヤバいの意味だけはわかった気がする。
 見た目は健康体で元気な子にも関わらず、何処か死にそうな感じ。 こればかりは実際に見ないと伝わらないかもしれない。
 顔色は良いのに「あぁ、ダメっぽいな」と病人を見て思ってしまう様な不思議な気持ち。
 流石にそれ以上はよく分からなかったので、普通にお泊まり会とイベントを楽しんで解散した。
 所々タニちゃんの存在が霞んで見えたり、ツーショットで一部掠れたりはあったが、本人は 「良くあるよ〜昔飼ってた猫がずっと居てくれてるのかも」とプラスに捉えていたから友人から聞いたことは伝えなかった。 友人の描いた絵に猫など居なかったが。

 彼女が地元に戻った次の日。
 友人が帰ってきたが「うわ、事故物件!」と言って塩撒き散らしていたのが1番の記憶。
 単刀直入にあの時の話を詳しく聞くと図を書きながら説明し直してくれた。
 中心にタニちゃん。デカい女が周りに蛇みたいに巻いている。 その後ろに中肉中背の普通の女。足元に崩れた何かと子供、そして全体的に黒い影。
「あのレベルで入院なしで生きてるの本気でよく分からない」って言ってた。
 あの時一番ヤバイと言ってた女はダメな方の神様崩れらしい。
 九州の田舎に住んでいるって言っていたし、写真の何枚かは山で撮影したものもあったから、どこかで持って帰っちゃったのかもしれないと思った。

 以上になります。 オチが弱いですが実話ゆえなので許してください。
 友人曰く、自身のお祓いの席で祠を壊した高校生のお祓いが1つ前で行われた時に見かけた、ヤバい方の神様と同じ感じがしたからそうだと思う、と言っていました。
 数年前突然アカウントを消して以来、今はどこで何をしているか分かりませんが、タニちゃんがまだ生きているといいです。

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