これは友人から聞いた話だ。
AとAのいたサークルは大学の同期と宴会の後に写真を撮る習慣があった。
それでそのサークルで写真を撮るとき、なぜか同じサークルのBが写真に写りたがらなかった。
気になったAがBに「そう言えば、お前、写真嫌がるよなぁ。あれ、何でなん?」とある時飲みながら聞いたそうだ。
すると、Bはバツの悪そうな顔で事情を話した。
Bは大学一年のとき、金もなく、都会で暮らすときに少しでも安い物件を探していて、事故物件に目を付けた。それで相場より5000円~1万円程度安いアパートに住むことになった。心理的瑕疵物件で最近自殺した人がいたところだったそうだ。
それでも地方から来たBにとっては初めての一人暮らしでウキウキしていたんだという。ここまではよくある話だ。
それでBは死んだ祖父の形見のポラロイドカメラ、写真を撮るとフィルムが出て来て時間が経つと写真が出来上がるタイプのカメラで、部屋と自分の写真を撮り始めたそうだ。
最初は心霊写真を期待していたのだけども、生活環境が徐々に変わっていく風景も面白くて、自分の部屋が変わっていく様子を定期的に撮る趣味が出来たようだ。それがAが話を聞いたときから数えて大体半年くらい前の話。
そうやって、Bが写真を部屋を撮り始めて1ヶ月くらいしたある日。
何気なく、不動産屋から聞いていた自殺した人がいたところで悪ふざけで自殺した様子を真似て写真を撮ってみたそうだ。
不謹慎とは言え、自分の部屋の、一人でいるときの一人遊びだった。
そうして、写真を撮るとなんか自分の像の後ろがわが若干ボヤけているような写真が取れた。
「心霊写真か?」と思ったけども、撮影時のブレみたいなものと大差がなかったため、Bはそのときは全く気にしなかった。
それからBにとっては恐ろしい出来事が続いた。
まず、夜中にどこからともなくバチッとかトントンとか、そういう不可解な音が聞こえるようになった。
昼間、ボケっとしていると耳元で風が吹いたような感覚を感じるようになった。もちろん、後ろで窓があるとかそういうのはない。
極めつけは夜の決まった時間、なにか重いものが吊るされるときのような音が聞こえるようになった。
そうやって色々な不可解なことが起きるものだから、Bはこれはもうお化けがいるんじゃないか、と恐ろしくなったそうだ。
それで心霊写真なんかに興味があったこともあり、怖い反面、好奇心が出始めて、それで幽霊が写りそうなタイミングで写真を撮ることにしたらしい。
夜の決まった時間で音が鳴る現象、それは部屋のロフトの登るところ近くで音がするから、タイミングを合わせてシャッターを切ることにしたそうだ。
それから時間が来て、音が鳴って、写真を撮った。撮った写真を見てみると、そこには何もなかった。
「音は気のせいで幽霊なんていないんじゃないか?」とBはこのときは思って、ポロライドカメラのレンズを何となく見つめていて、そこで誤って自分にシャッターを切ってしまったという。
撮れた写真から像が出て来て、それを見たBは顔をひきつらせた。
自分の後ろに、なにか、いるような写真が撮れていた。ブレとかそういうのではなく、前に悪ふざけして撮ったときのボヤっとしたものとは違って、ある一点だけが明確にボヤけている。
それは明らかに不自然だったし、写真を見ていると背筋に冷たいものを感じた。心なしか視線も感じるようになった。
そして、Bは「だから、写真を撮るとさ。変なの写るようになったし、写真を撮った後は必ず視線を感じるようになっちゃって……自分の写真、撮れなくなったんだ」と語った。
そこでAはふと疑問に思った。
「写真を撮るときは必ずって、その後、何度か撮ってたのか?」と聞く。
Bは頷いて、「そりゃ、気のせいかもと思ってさ。何度か試しに撮ったんだ。それと幼なじみと写真を撮る機会があったりしてさ。それでな……」とBは話を区切った。
それでBが写真を撮る度にボヤけている何かが少しずつ形が明確になっていっているという。
何度も撮ると、どんどん、どんどん、それは人の形になっていき、Bを物凄い形相で睨み付けていると。
だから、もうBは怖くて自分の写真を撮れなくなったらしい。
「就活の証明写真とか、俺、どうしたら良いんだ……」
Bは心底参った様子でそうぼやいていたそうだ。
これが俺が友人から聞いた話。