霧の先

 これは私が実際に体験した体験談である。
 会話内容などはうろ覚えなので正確ではないがなんとなくそんな感じの雰囲気だったので気にしないでほしい。

 私は若い頃、趣味でバンド活動をしていた。
 昼から夜まで仕事をしていた為、バンド練習は夜の0時から深夜3時頃までで、都内のあるスタジオでバンド練習をしていた。

 ある夏の日のことである。
 その日もいつものようにバンドの練習が終わりメンバー達が各々片付けをし、軽い雑談の後、それぞれ帰路につくという、いつもと何も変わらない日だった。
 メンバーはそれぞれ違う県に住んでいて、朝方というよりかは夜中の3時頃に帰ると道が空いているという理由もあり、毎回その時間の帰りだったので私は各々に別れを告げ、荷物をまとめて外に出た。

(あれ?なんか霧がかってないか?雨でも降ったのかな?)と思い目の前の道路を見ても濡れてない。(ん?なんで霧なんて出てんだ?)
と、疑問に思っていた。
  その日は朝から快晴で、昼は30℃を超え夜でも蒸し暑かったからだ。
 一瞬、雨が降ったのかな?と思い、腑に落ちてはいないが、そんなに気にする性格でもない私は近くのコインパーキングに向かった。
 私がいつも停めているコインパーキングは人が交代制で管理しており、夜は気さくなおばちゃんが朝まで管理していたので、おばちゃんに雨が降ったか聞いてみようと思い、管理室を覗いてみた。

 すると背後から
おばちゃん「お疲れ様!今終わったのかい?」
私「おおお!びっくりした!なんだ!後ろに居たんですか!脅かさないでくださいよ(笑)」
おばちゃん「ごめんごめん(笑)どうしたの?何か用でもあった?」
私「いや、別に用ってわけじゃないんですけど、今日って一瞬雨でも降りました?」
おばちゃん「いいや、雨降ってないと思うよ。ずーーっと一日中暑いから雨でも降ってくれたらいいんだけどねー。」
私「そうですよねー。雨降ってないんですねー。」
おばちゃん「うん。降ってないと思うけど、どうかしたの?」
私「いや、別になんでもないですよ。別に気にしないでください。。。じゃあ俺帰りますんで、また明日!」
おばちゃん「そ、そう?じゃあね!気をつけて帰るんだよー」
私「はいはーい」
 と、私はおばちゃんにお金を渡し車に乗り込み、すぐにエンジンをかけおばちゃんに手を振りながら車を発進させ目の前の大きい車道に出た。

 車道に出てみてわかったのだが、予想以上に霧が濃い。
(うわぁ、まじか、濃いなー、この霧)とぶつぶつ独り言を言いながら車道の三車線の一番左をゆっくり走っていた。

 しばらく走っていて違和感にすぐ気づいた。

 なんかおかしい。
 こんな目の前10m先も見えない状況なのに後方から来る車は物凄いスピードで抜かしていく。それも毎回毎回。
 私も霧じゃなかったら同じようにスピードを出してるんだが、この霧の中でそんなスピードを出して走るなんて自殺行為だ。だから時速30キロくらいで、トロトロ走っているのだ。
(てか、このままこの道走っていたら後方からぶつけられるんじゃないのか?)
と、ごく当たり前の考えにたどり着き、私は大通りを真っ直ぐ行けばものの10分くらいで帰れる道のりを、信号のない、人通りの少ない、車もいない裏道へ迂回して帰ることにした。

 この道なら学生時代に何度も自転車で通ってる道だし、ゆっくり走ってても大丈夫だな。
 なんて余裕をかまし、超低速で道を進んでいた。
 迂回して思ったんだが、霧濃くなってる。
(あれ?目の前全然見えないんだけど、ハイビームにしてんのに全く見えないんだけど)
 そう、目の前が霧で真っ白。でもその場で止まる選択はせず、ギアをDの状態でアクセルを踏まず、ブレーキに足をかけた状態でかつ、窓全開で車来てますよアピールとして音楽爆音で走っていた。非常に迷惑な車両である。
 今、自分がいる場所を把握するべく、降りては廻りを確認して走行を繰り返し、場所を把握しながら少しずつ進んでいると……。

 車で徐行している私に対して視線を感じるようになった。
(ん?なんか見られている?) 
 運転席側の窓から下を見ていると霧の中から1匹の犬が座った状態で私を見ていた。
(ん?犬?なんでこんな夜中に?) と思っていると、犬の首輪から伸びているリードが徐々に霧の中から現れ、リードを持っている手が現れた瞬間。
(え?こんな霧の中散歩かよ!) と思いパッと顔を上げると、おばあちゃんが満面の笑みでニヤニヤしながら私を見ていた。
(こわっ!!気持ち悪っ!!) と思い私はアクセルを一瞬踏み込み丁度、曲がる道が見えたのでそこを曲がった瞬間、目の前の霧が一気に晴れた。

 そこで私はびっくりして車を急停車し、(え?ここで晴れるってやばくない?) と思い、恐る恐る後ろを見ると、そこには誰も犬も霧もなかった。

「え?霧は?え?気のせい?そんな気のせいっていうレベルじゃないんだけど」
と独り言を言いながら外に出て辺りを詮索。

 結果、霧なんてどこにもなかった。車でスタジオまで戻ったんだがその道のりのどこにも霧なんてない。
 しかもスタジオの近くのコインパーキングに行くと、おばちゃんから
おばちゃん「ん??あれ?どしたの?なんか忘れ物?」
私「え?いや、、、てかまだ居たんだ、そろそろ交代の時間じゃないの?」
おばちゃん「何言ってんの(笑)すぐ戻ってきたのはそっちでしょ」
私「え?」
 と、私は時計を確認すると、私がここを出てからものの5分しか経っていなかった。

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