怪談朗読の中では、度々語り部が自分は霊感が無い、と言う風な事を言って語り出すことが多い。
例に漏れず私も霊感は無い。
全くもって皆無である。
そう言う経験もした事が無い。
だからこそ
未知の領域に好奇心を持っていた小さい頃
からオカルト系が好きで、毎年ほん怖は欠かさず視聴してお昼のお供には怪談朗読を聴くほどには私は怖い話が好きだった。
そんな私が”聞いた”身近で起こった不思議?な話。
上記の通り霊感の全く無い私が当時小学4年生の頃のこと。
この位の歳の子は夏場になるとそう言う怖い事に積極的になる傾向にあった。
その為夏休み前のクラスではどこそこの家には何かが出るとか、どこそこのビルはヤバいとかそう言う噂が夏休みに入るまで飛び交っていたのを、聞き耳たてて聞いていたのを覚えている。
夏休みを迎えて友達達と遊ぶ毎日の中、それが4年目に突入すると流石に家の近所では楽しさが無くなってくる。
別に鬼ごっこが嫌だとか、川遊びが面倒だとかではなく、子供心の大半を占めている
ワクワク感ドキドキ感が全く感じられなくなって来てしまうのだ。
つまりは”飽き”が来てしまう。
どんなに楽しかろうがいまいち高揚感に欠ける遊びを続けていても面白みがない。
と言うことで、夏休みも半ばを迎えたその日
“私達”と友人で別な遊びをすることにした。
内容は言わずもがなの肝試し。
真夏の真昼間、白昼堂々の肝試しに全く肝も冷えたもんじゃ無いと思ったが、場所が場所だけにそんなの関係ないかと私は思い直した 。
メンバーは私、姉、親友のMちゃんに幼馴染のY。
家からさほど遠くなく、学校までの通学路にあるそのマンションは、歩いて10〜20分もすればすぐに付いた。
外観は錆と薄汚れて年季の入ったコンクリート壁のお陰で見事な不気味さが醸し出さられる住宅マンション。
ただその一方で、マンションであるだけに住人はそれなりに住んでいた。
だから、多少の不気味さはあれどエントランスに入りさえすれば休むことなく稼働するエレベーターと、集合ポストから溢れたチラシや新聞やらで生活感を感じて不気味さも一気に吹っ飛ぶ、そんな所。
じゃあどこで肝試しをするのか、それは
エントランス入口のすぐ横にあった。
「非常階段」
ここのマンションの噂もチラホラと学校で話されていた。
曰く、非常階段を上がっていくと5階あたりで足を引っ張られる。
たったそれだけの事なのに噂になったのは実際に足を引っ張られて転んだ子が居たらしかったからだ。
だからと言って自ら足を引っ張られに来た訳では無い。
『入ろ』
そう言った私に伴い皆で非常階段に入った。
一階につき1個付けられた蛍光灯は数の少なさのおかげで薄暗く、年季が入っているため頼りない。
何より各階にある扉は鍵こそかかっていないながらも閉じており、採光を取り入れる窓もない。
入口の扉を閉じて横にある電気のスイッチを消そうものならお昼にも関わらず一瞬のうちにこの非常階段内は真っ暗闇になってしまう。
私は、それを”知って”いるからこそ余計に有りもしない妄想を膨らませて怖いながらもドキドキと高揚していた。
しかし、最上階まで来ても何も起こることは無かった。
精々階段途中で赤いペンキのシミを見つけてキャーキャー叫んで面白がったくらいしか
楽しさも無かった。
それもそうか⋯と思う。
そもそもこの非常階段には霊なんていないことは知っていた。
霊に引っ張られて転けるなんてこともないことも知っていた。
何故なら、そのコケた子は姉の友人として面識がある女の子だったからだ。
だからその子がただたんに足を階段に引っ掛けて転んだことも知っている。
このマンション自体もただ古臭く、立地の影響で日が当たりにくく薄暗いせいで”何か”出そうな雰囲気がするだけのただマンションだと言うことも何回か来ている為知っていた。
とどのつまり
真夏の暑苦しい雰囲気を、少しでも和らげようと雰囲気だけ怖いここに、ただ来てみただけなのだった。
「なんも無かったね〜」
『せやな〜、暇やし鬼ごでもする?』
「ええな〜!」
「やろやろ!」
暑い外よりも冷たいコンクリートのマンションの中の方が楽しい。
そう考えて肝試しも終わり暇になった私達はそのままマンションの中で鬼ごっこをする事になった。
タッチされれば次の鬼、ではなく捕まれば檻替わりにエントランスホールで終わるまで待つという仕組み。
全員が鬼に捕まれば終了して次の鬼をジャンケンで決める。
それを三回ほど繰り替えして、走り疲れた私達は夕方だということもありさっさとマンションから出て帰路についた。
結局私にとってその日の事は、只の楽しい夏休みの1日に過ぎなかったのだ。
私にとっては。
その日の夜、パジャマに着替えて布団に潜り込んだ私と姉は、今日の事について話していた。
楽しかった、次は何がしたいアレがしたい。
そんな話に花を咲かせていると、姉がふと思い出したようにあのマンションにはもう行かないと言い出した。
『なんで?』
「怖いから」
『何が?』
誰も聞いていないのに、声を低めてヒソヒソと話すように姉は語った。
三回目の最後の鬼ごっこで私が鬼になった時のこと。
一階のエントランスで私は待機して残りの3人で一旦エレベーターで最上階に上がるとそこから非常階段とはまた別の内階段で各々が好きな場所に逃げていく。
その時姉はYと一緒に6階の端に隠れるようにして様子見をしていたらしかった。
手すりから少し顔を出せば下の階の様子が見れて、丁度その時Mちゃんが私に追いかけられているのが見えたそうだ。
そしてその私の後ろを走る知らない女の子も
『女の子?そんな子おらへんかったやん。』
「⋯居たで。
Mちゃん追っかけてるお前を追っかけるようにして走ってた。」
『⋯マジか』
姉は瞬時にこの世の者では無いと分かり、
早く帰りたいと思っていたのだと言う。
その後、Mちゃんが捕まったのを見て一旦
移動しようという事になり一階にでも行こうと周囲を警戒しながらもエレベーターに乗ったらしい。
その時私はMちゃんを追いかけて疲れていたのでエレベーターを呼ぼうと2階でボタンを押したところだった。
でもエレベーターはボタンを押す前から6階に向かって動いており、そこから下に下がってくるのを見て誰かが乗っている事に気がついていた。
誰かが乗っていれば私の居る階で止まる!
ニヤニヤしながらエレベーターが来るのを
私は待っていた。
案の定姉とYが乗っており、Yが悔しそうに閉のボタンを連打していたのを見て勝ち誇った笑みで見ていたであろう事を思い出す。
『あの時はよっしゃ!って思ったな。』
「⋯うちは怖かった。」
どうやら、その時もその女の子はいたらしかった。
女の子付きの私から逃げるためにエレベーターに乗ったのに、2階で止まって扉が開けば勝ち誇って嬉しそうな私の隣にその女の子が立っていて逃げ場の無いエレベーターの中で
必死に気付かれないようにガクブルしていたのだと。
そして何より、姉もYも捕まった事によりそのままエレベーターで一階に降りようと私がエレベーターに入り、女の子もそれに続くように入ってきたことが何よりも怖かったのだそうだ。
ただ、マンションから帰る頃には女の子は
付いてきておらず、心底安心したと姉は言った。
特にオチはないけれど、
これが姉から”聞いた”話。
姉からしたら怖い体験なんだろうけれど、
私からしたら見えない女の子とも
一緒に鬼ごっこをしてたんだな〜という
不思議?な話。
ただ、今でも思うのがその女の子は一体どこから来たんだろうという事。
そのマンションで事故や事件があったなんて話は聞いたことがなかったから少し不思議に思った。
因みに書き忘れていたが、姉はバリバリの
“霊感少女”である。