私は五年程前から日記を毎日書いている。
日記帳は一冊で366ページ。1ページに五年分の、その日付の記録を書けるようになっている。例えば四月九日のページを書いている時は去年、一昨年、その前の四月九日の記録も同時に見ることができる。
半年より少し前、深夜に日記を書いているとき、ふと目についた三年前の記録に違和感があることに気づいた。
記録の一部がボールペンか何かでぐちゃぐちゃに塗りつぶされていたのだ。一部、といっても一単語程度で、文脈から友達Tの名前が書かれていたことが分かった。
その友達は二か月に一度の頻度で遊びに行く程度には交流があり、数週間後には複数人で会う約束をしていた。
そして半年前。
二か月ぶりに会ったTはひどくやつれていた。
本人は元気だと言い張っていたが、ただ事ではないと私たちが事情を問いただすと、Tは近頃あまり家に帰れていないのだと話し始めた。
Tはもう働いていたため、仕事の繁忙で残業が続いているのかと思ったが、どうやらそうではないようだった。
数週間程前から、仕事が終わって家に向かっていると、マンションの四階にある自分の部屋の前に知らない男性がいるのが見えるのだという。
頻度としては一週間に3~4日程。部屋のドアに両手を当て、覗き穴に顔を近づけているそうだ。
不気味に思ったTは最初こそ警察に連絡したのだが、警察が駆け付けた時には既にいなくなっていたのだという。そういったことが連日続いたため、それからは帰宅の際、遠くから男が見えたらインターネット喫茶で一晩明かし、早朝に着替えをして会社に向かっているらしい。どうやら男がいるのは決まって夕方から夜の間なのだそうだ。
しかし一度、日曜日の夜に家で過ごしているとき、不安になって扉の覗き穴から外を見たところ、塞がれたように真っ暗で何も見えなかったらしく、それからは家にいても落ち着かないためほとんど外出をしているそうだった。
その話を聞き、その日の夜に私ともう一人の友達Aで、Tの家に泊まることになった。
私とAは着替え等を持っていくため一度帰宅した。
私が自宅に着き、着替えを入れるためのリュックを出そうと押し入れを開けたとき、奇妙に凹んだ布団の上に見知らぬペンが置いてあるのに気が付いた。
私は先日の日記のことを思い出し、着替えと日記をリュックに詰めて足早に家を出た。
その日、Tの家で一晩明かしたものの、結局その男性が現れることはなかった。
それと、私の日記のことを二人に話した。Tの名前が塗りつぶされていること、私の部屋の押し入れに見知らぬペンがあり、気のせいかもしれないが人のいた痕跡があったことを。
その場で日記を二人に見せたのだが、日記に書かれている他のページのTの名前が全て塗りつぶされていた。
昨日書いた「Tと遊びに行く」という部分すらも。
Aからは私とTの二人へ、お祓いに行くよう言われ、次の週に予定した。
Tの家から帰宅し、私は部屋の有様に驚いた。
泥棒が入ったかのように荒らされていたのだ。
引き出しの中身は乱雑に出され、本棚はひっくり返っていた。通帳や銀行印の入っている金庫や押し入れの中の布団まで投げ出されていたため私はすぐに警察に連絡した。
結果、何も盗まれてはいなかったが、あのボールペンだけは見つからなかった。
次の日、予定を繰り上げて私とTはお祓いへ行き、それから不可思議な出来事はなくなった。
部屋に侵入した者は、私の日記を探していたのではないかと思う。