覗き穴

これは、私が先日体験した出来事です。

その日、いつも通り仕事を終えた私は自宅のマンションに着くと郵便受けを確認していました。
すると1階の住人が、2階へ荷物を運んで行くのが見えました。
宅配便の人かな?なんて思ったのですが、階段を上る際にふと一階の通路を見てみると
引越しなのか玄関が開いたままにされ、
その扉からはゴミ袋や段ボール箱がはみ出て置かれていました。

上の部屋が空いたから移動でもするのかな? 程度に考え自室のある2階に行くと
自分の部屋の3つ隣の奥の角部屋も 1階と同様に玄関の扉が開け放たれていました。
きっとあの部屋に移動になったのかな。と勝手に思いながら自室の鍵を開けて中に入りました。

想像通り奥の部屋から階段に向かって歩く足音がドカドカと聞こえてきました。
やはり人間の好奇心なのでしょう。
どんな人なのかな、と興味をひかれ部屋の覗き穴から外の廊下を覗くと
30代くらいの2人の男性が目の前を通り過ぎて行きました。
友達が手伝いに来てるならどちらが住居人かはわからないな、と見るのをやめようとした時
また奥から誰かが歩いてくる音がしたので覗き穴にもう1度向き直りました。

50代くらいの、暗い雰囲気の男性が猫背ぎみにゆっくり歩いてきました。
瞬時に違和感に気がつきました。影がおかしいのです。
先に通った2人は影が床に落ちていたのか見えなかったのですが、
今回の人は後ろに寄り添うように影がついています。
私のマンションは玄関扉のある壁の向かいはベランダのように下が見えるような作りになっているので、
空間に影が浮いているような感覚だったのです。

不思議にじっと見つめていたのですが、ゆっくり歩く男性が覗き穴の視界から消えて行った時、
ふと黒い影だけピタリと 動きを止めたのです。
影にしか見えないのですが、なぜか見られているような感覚になり、急に好奇心が恐怖に変わりました。
慌てて覗き穴から目を離し、部屋の奥へと入りました。

きっと何かの勘違いだろうと自分に言い聞かせて夕飯作りに取り掛かりました。
玄関を入ってすぐに台所があったので、少しするとまた外から声と足音が聞こえてきました。
さっきのは見間違えなのかと気になっていたので、性懲りもなくもう一度覗き穴を通して外を見ました。

「いやー、本当に助かったよ。やっぱり3人だと早いわ、ありがとな」

「今度、酒でも奢れよ」

「宅飲みでもいいからな」

そんな声と共に先程の2人の男性と住居人だと思われる同年代くらいの男性が
階段の方から現れては奥へと消えて 玄関扉を閉める音がバタンと聞こえてきました。
もちろん気になる影もなにもありません。
あぁ、さっきの人が住居人なのかなと思う反面色々な謎が思い浮かびました。
このマンションは結構壁も薄く音が振動してきやすいので、玄関を開け閉めする音が聴こえてくるのですが
この一連で扉の閉まる音は1度しか聞こえていないのです。

あの時見た50代の男性は一体どこから現れたのでしょうか、
影は一体なんだったのでしょうか。

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