人生で初めて幽霊をみた時のお話

 私の地元には全国的に有名な心霊スポットがあります。
 そこでの恐怖体験をここに記したいと思います。

 あれは2002年の夏のことでした。
 私は仕事が終わった宵の口に当時、懇意にしていた友人A宅へと遊びに出かけました。
 家に行くとAの母親が私に気を遣って料理をふるまってくれたので、私はそれを頂きながら私はAと談笑していました。
 すると上の階から楽しそうな女子達の話し声が聴こえてきました。
 Aには高校生になる妹のBがいました。 どうやらBもまた家に友達を呼んで、お泊り会をしているとのことでした。
 さほど歳の差も無かったためかAとBは仲が良く、私とAはBの部屋へ行ってそこに来ていたBの友達のCも含め皆で談笑することにしました。
 そしていつの間にか話題は夏には定番の怪談へと変わっていました。
 当時の私はオカルトというものを一切信じていませんでした。 そのため、いろんな怪談を聞いたものの心の中ではどの話も作り話だろうと鼻で笑い飛ばしていました。
 そうやって皆で話に夢中になっている内に時間が流れ用意していたお菓子やジュースが底を尽いた夜半過ぎにCが突然「心霊スポットに行きたい!」と言い始めました。
 こうして私達一行は私の車で県内でも有名な心霊スポットに行くことになったのです。
 私は少しチューハイを飲んでいたので、運転はAがしてくれることになりました。
 助手席の私は携帯電話で別の友人に心霊スポットまでの経路を聞きながらそれを運転手のAに伝えていました。

 心霊スポットは隣の市にあったんですが、私とAの連携の手際がよかったのか出発して20分程度で到着しました。
 Aは心霊スポットの近くにある空き地の隅に車を停めました。
 そして、さあ行こうかという時になって突然Bが「私は怖いので車で待ってる」と言い始めました。
 Bは普段から気の強い性格の女の子でしたが、霊的な怖さには耐性がなかったようです。
 まあ、こんな夜中に人気のない空き地で女の子が独りぼっちで皆の帰りを待つのも逆に怖いのではないかと思いましたが、無理に連れ出す事もできず「ドアロックはちゃんとしておきなよ」と伝えてから、私とAとCの三人で出発することにしました。
 しばらく歩くとボロボロの土塀の中央にある朽ちた門が見えてきました。
 廃墟になる以前はさぞ立派なお屋敷だったんだろうと感じさせる外観だけに、地元では「武家屋敷」等と呼ばれている場所でした。
 門をくぐるとそこには草木がぼうぼうと生い茂る荒れ地が広がっていました。
 当然に道も見当たらず、どこを進んでいけばいいかも分からない程の荒れ具合でした。
 そこで私は携行していた懐中電灯で辺りを照らし、奥に進んでいけそうな道を探しました。
 すると、隣にいたAが「○○(私の名前)、あそこに幽霊がいる」と言い始めました。
 Aの方へ目をやると、彼は何もない宙を指差し口をポカンと開けたまんま硬直していました。
 日頃から彼はよく冗談をいうお調子者な性格だったので、私はいつものことだろうと思い「はいはい」と言って聞き流しました。
 彼は私が水を差すと、より真剣な面持ちになり「ほんまやって! マジでいるから……あそこ! 見てよ!」と語気を強めて言いました。
 しかし彼の指差すところは何度見ても幽霊など見当たりません。
 それに当時の私は幽霊なんてまるで信じてなかったので彼の言動が演技にしか見えませんでした。
 それでも彼は「幽霊がいる」としつこく繰り返すので、私は目の前の茂みにライトを当てると「どこにいる? そこを照らすから、ライトの光を誘導して」と言いました。
 彼は「もうちょっと上、もうちょい左、あっ……行き過ぎた、ちょっと右に戻って…」といった具合に私の照らす先を誘導し始め、私はその通りに懐中電灯を動かしました。
「はい、そこ!」 と彼が言った場所で私は懐中電灯の持つ手を止めましたが、照らされたその場所には何もありませんでした。
「何もないやん」と私が言うと彼は「そこにいるんだって! 見えない? 女の顔が……」と不気味なことを言い始めました。
 そもそもライトで照らしたその場所は木の上の方で人が登れる場所ではありません。 そんな場所に女の顔があること自体おかしい話です。

 私はしばらく自分の照らしたその場所をじーっと見ていました。
 するとライトの真ん中に丸い靄がの様なものがあるのに気が付きました。
「なんだろう?」と思って私はそれをじっと見つめていると、それはまるで水中から人の顔が出てくるように赤い女の顔へと変化しました。
 私は思わず「うわっ!」と奇声を上げてしまいました。
 オカッパ頭で釣り目の真っ赤な女性の顔がそこに浮かび上がったのです。
 急に取り乱した私の様子を見てAは「○○も見えた? な? おるやろ?」と言ってきました。
「おるおる! 女の顔が宙に浮いてる……」
 私がそう言うと、Aを睨みつけていたその顔は私の方へギロっと向き直りました。
「うわっ! 目が合った!」
 思わず私は手に持った懐中電灯を落としてしまいました。 なんせ、それまで幽霊を一度も見たことが無かった私は気が動転していたのです。
 その顔はライトの光を外しても真っ暗な闇の中で見え続けました。
 まず、人の昇れないような場所に女の顔だけが浮かんでいること、そしてライトで照らさずとも闇の中で見え続けること、こういった物理的に説明のつかない現象の連続に私は頭が真っ白になって「とにかく帰ろう!」と叫びました。
 私達3人は走って車まで戻りました。 そしてAの家まで帰る帰路でどんな顔が見えてたか、Aと二人で答え合わせしていました。
 オカッパ頭に釣り目の真っ赤な女性の顔……初めはAの方を睨んでいたが後で私の方へ向き直ったこと。
 顔の特徴も幽霊の行動も何から何まで私と彼の話が一致して、二人が見たものが同じものであることを確認しました。 因みにCには見えてなかったようです。
 それでもこれは少なくとも私やAの幻覚ではないことだけは確かです。

 この一件があった三日後、私は別の友人Dにこの話をしました。
 A達と心霊スポットに行った時に電話で道案内をしてくれた人です。 するとDは「なにそれ? すげー! 俺も幽霊みたい! もう一回みんなで行こうぜ!」と言い始めました。
 私はAに電話を架け「もう一回行くか?」と尋ねましたが、Aはとても暗い声で「俺はもういいわ……あそこには二度と行きたくない」と言いました。
「何かあったん?」と尋ねたところ彼は「なんか俺あそこから持って帰ってきたかも……毎晩変な夢を見るんや」と言って切ってしまいました。
 結局それでもう一度いく話は流れてしまいました。

 そしてその一週間後、Aは車で生死に関わるような大事故を起こしました。 地方紙で取り上げられるような大事故でした。
 幸い一命を取り止めたAでしたが、この事故についてはいくら尋ねても多くを語ろうとしませんでした。
 あの女の顔とは無関係と思いたいですが、やはり向こうへひっぱられようとされたのでしょうか?

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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