お狐様の怒り

 これは、私の兄が体験した話です。

 そもそも前提として説明させていただきますが、我が家では怪奇現象などがよくおきるのです。
 例えば、家族以外からの視線を感じたり、玄関と廊下で、2、3メートルはあるだろう白い女の人が出たり、兄の部屋の辺りから誰もいないのに足音がしたり。
 特に、その足音のせいで、兄はトイレにいたのに、母が「あれ? 2階にいたんじゃないの?」と、なったりします。
 そんな家なものですから、よく見たり、不思議な体験をしてしまいます。
 私自身もそうなのですが、よく怪奇現象がおきる部屋にいる兄はより一層そういったものを見たり体験することが多いようなのです。
 わりとよく霊を見慣れているせいか、もはやそれが、当たり前になっています。
 見慣れている兄曰く、我が家に現れる霊は大抵は白っぽく見えるけれど、黒く見える霊は嫌な感じがするそうな。
 そんな兄が体験したことを挙げると、寝たあと夢の中で足を引っ張られ魘されるそうです。それはよくあることなそうで。
 他にも、夜金縛りにあった最中に黒いもやのようなものが目の前に浮いておりそのあと気絶してしまったとか、 それから、突然飛び起きたら黒い人影がこちらを睨み付けている、小柄で背が曲がっていて老人、それも男性だとはっきりわかったそうなのですが。
 その時はあまりに怖くて兄は急いで布団をかぶり、震えていたら後ろを向いて部屋のドアをすり抜けて消えていった、 などなど、エピソードは色々あるのです。

 前置きが長くなりましたが、こういった経験が日常茶飯事で感覚が多分麻痺していた兄が、今までで一番怖いと感じたエピソードを兄視点で語りたいと思います。

 あれは、数年前のある冬の日のことだった。
 妹がオカルト系の話が好きでよくパソコンやスマホで、そう言った内容の動画をよくみていた。 その時私はたまたま暇で、一緒になって動画を見ていた。
 動画の内容は、芸能人と霊能力者の先生がとある神社で夜中に取材したものであった。
 そこでは、霊能力者の先生が霊視で「神様が強い力を持っていて、ご利益も大きいが祟った場合も怖い」と話していた。
 更に、「外部のものが来たことに怒っている。足を何度もバンバンと地面を蹴っている」と話していると、信者の人たちがぞろぞろと現れた。
 信者曰く、夢の中で神様に呼ばれたといっていたようだった。
 それを見た私は、「どうせやらせだろ。くだらない。仮に本当だったとしても随分と狭量で我が儘な神様だな」と思っていた。
 そして、就寝していたときのことだった。
 突然強い力で胸のあたりを圧迫されて、目を覚ました。
 あまりの苦しさに「うぅっ」とうめき声がもれた。 胸を押さえているのは明らかに人のものではなかった。
 犬? いや、この感じは犬とも違った。 しかし、間違いなく爪の食い込みかたや肉球の感覚が犬科動物だった。 獣の荒い息づかいを近くに感じる。
 今までで霊を見たことや霊障にあったことら何度もあったけれど、あまりに強い存在感とピリついた空気に今自分を押さえている何かはそれらとは明らかに格が違うのをはっきりと理解することが出来た。
 そういえば、妹が見ていた動画の神様は確か狐の神様だったなと、ふと思い出した。
 恐る恐る目を開いてその姿を見る。
 その姿はとても大きな狐のような黒い影だった。 しかし、あまり驚きはなかった。逆に冷静すぎる自分に驚いた。
 自分を押さえつける足が、自分の手のひらよりも大きいことまで確認していたので。
 もしかして、妹と見た動画で言われてた神様かその眷族の方ですか? と、問いかけようとしたけれど、苦しくて声は出せなかった。
 心の中で「あなたは神様ですか?」と問いかけると「グルル」と肯定するかのように呻き声が聞こえる。
 もしかして心の中でバカにしたことを怒っているのかと思い至った私は、ひたすら祈った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、許して下さい。もうしません。どうかゆるしてください」と、何度も何度も。
 恐怖で年甲斐もなく涙が溢れた。
 ふと、圧迫感から解放され、獣の気配も消えた。
 ほっとして、胸の辺りを見てみると布団は胸の辺りが不自然に凹んでいた。

 以上が、兄が体験した怖い話です。
 今現在、それから兄にその獣が現れることはないそうなのですが、その話を聞いた時に、きっかけはお前のせいだからなと責められた私は、とんだとばっちり受けた出来事でした。
 最早兄の自業自得なのですが、皆様も神様やそれに準ずるものにたいしての心持ちは慎重になったほうがいいかもしれません。
 兄のように天罰が下るかもしれませんから。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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