爺さんの遺産

 田舎暮らしをしていたウチの爺さんが亡くなって、 一家の長男でもある自分にもその遺産が転がってくることになった。
 なんでも畑で倒れて、誰にも気づかれずにいたらしい。
 発見されたのはカラスがたくさん群がっていたのを近所の人が見つけたからだとか。
 そんなわけで、突然オンボロな古民家と小さな畑を相続したわけだ。

 自分は今は東京住まいでさっさと脱サラし、都内でアパートを3棟ほど経営して、 あとは投資なんかで資金を回して生活している。
 なので、せっかくもらった土地家屋についてもちょっと考えさせてもらった。
 オンボロ古民家なんて、住むには最低ですぐにでも取り壊して更地にしようかとも思ったのだが、 いやいや、あそこは山も近くて冬にはちょっとしたスキーリゾートになる。
 古民家を改造してゲストハウスとか民泊のようにすれば外国人観光客にウケるかもしれない。 なんなら中国の富裕層のやつらに土地ごと売りつけてもいい。買い手はすぐにつく。
 そこでまぁさっそく500万円ほどかけてリフォームをすることにした。
 いくら風情ある古民家と言っても、水周りだけは最新にしておかないと客は納得しないものだ。
 逆に言えば、そこさえちゃんとしておけば、あとは古くて汚くてもジャパニーズビンテージで通る。
 あとは駐車場だ。
 今までは車で帰省しても玄関前にちょっと停めておいても問題なかったが、 客商売ともなるとそうもいかない。
 だから畑はつぶして駐車場にすることにした。 ……が、ここからおかしなトラブルが起き始めた。
 駐車場づくりを依頼した土地の業者が畑を下見をして、依頼のキャンセルを言ってきた。
 畑の隅、ちょうど道路との境あたりに石で作られた古い祠があり、 その中にお地蔵さんのような、道祖神のようなものが祭られている。
 それを見た業者が「祟られるので取り壊しはできない」と言ってきたのだ。
 確かにそんなものがあそこにはある。ガキの頃に見たことはあるが、古くて汚いし、 それに確か、頭が二つあるような気味の悪い作りで、造形も美しくないし、 とてもじゃないが粗大ゴミにしか思えない。
 それに駐車場を作るためには 入り口付近を塞いでとても邪魔な位置にある。
 かならず撤去しなくてはならないのに、 それをなんとバカバカしい理由であろうか。この現代に祟られるから工事をしたくないとは。
 すぐに別の地元の業者を探して依頼してみたものの、やはりあまり良い顔はしてくれない。 だからこう言ってやった。
「あれはもう神社に依頼してご祈祷してもらったから大丈夫です」と。
 そんな神社とのツテなんか知らないが、まぁこうでも言わないと引き受けてくれそうもなかったので 嘘をついて依頼した。
 が、それもとんだことになってキャンセルになった。
 いざ工事をしようと業者が運んで来た小型のユンボが、社長を乗せたまま横転。
 ユンボはどこかがひん曲がるわ、社長はどこかを骨折したとかで、やめさせてくださいと泣きを入れてきた。
 田舎の人間は信心深くて困る。たかだかちょっとした事故をすぐに祟りと結びつけるとは。
 ……そう考えていた時、ある男の顔が浮かんで来た。 そうだ、アイツに相談してみよう。
 アイツとは、高校時代の悪仲間だったトモユキのことだ。
 もっとも高校時代と言ってもトモユキはとっくに高校を中退していたが。
 やつは地元の工務店に務めながら、週末には俺らと改造バイクで駆け回った仲だ。
 深夜に心霊スポットまで行き、スプレーで落書きしまくったりしたこともある。
 あいつは度胸が据わってるし、警察も幽霊も屁とも思っていない。 そんなアイツも今では工務店の社長だという。これはもう今回の依頼に最適じゃあないか。
 懐かしさもあるし、直接会って話をすることにした。

 地元でもうまいと評判の居酒屋に一席設けて、酒を交わしながら昔話に花が咲く。
 相続した家をゲストハウスにするという話もノリノリで聞いてくれた。
 そこで、駐車場の件をやってほしいと頼み込んだ。 もちろん、最初の業者が祟られるからと断って来た話もした。
 が、トモユキはガハハと笑い飛ばして 「そんな肝っ玉の小さいことで仕事ができるかよ」と強気な口調で言ってくれた。
 よかった。やっぱりコイツならなんとかしてくれそうだ。
 深夜まで飲んだオレたちは、そのノリのまま、トモユキの業務用のバンで例の畑までやって来た。
 ライトに照らし出される石の祠。
 おもむろにバンの後ろから大きなハンマーを取り出したかと思うと、トモユキは祠の前に立ち 「オラァよーく見とけよ」と言うと、大きくふりかぶってハンマーを祠に叩きつけた。
 にぶい音と共に崩れ落ちる祠。そして中から現れる頭が二つある道祖神。
 今度は横から大きくふりかぶったと思ったら、道祖神の二つの頭が遠くまで吹き飛んでいくのが見えた。

 ……さて、ここから先は実はあまり人には話したくないのだが、 もうここまで来てしまったら全部話すことにしよう。
 結局トモユキのおかげで駐車場は完成したのだが、お金はまだ払っていない。 いや、たぶんもう払わなくて良い気がする……。
 駐車場ができあがってから少しして、トモユキの住宅兼事務所から火が出て全焼。 ……トモユキも、トモユキのカミさんも、息子もみんな亡くなってしまった。
 全焼したのはそこだけではない。
 リフォーム中だったオレのぼろ古民家も燃えてしまったそうだ。 消防の話ではおそらく放火だろうとのことだ。
 順番的にはまず古民家が燃えて、同じ日の深夜にトモユキの工務店が燃えている。
 それから……本当に勘弁してほしいのだが、オレの持ってるアパートの1棟からも火災が出た。
 もう1棟では女子大生が自殺しているのが見つかり、 そして残りの1棟では、自殺志願者を募ってその人を殺してアパート内に隠すという殺人事件が起きてしまった。
 なんと手持ちのアパートすべてが同時に全部事故物件になってしまったのだ……。
 オレがいったい何をした。祟りなんてものを認めろと? いや、これは偶然だ。バカらしい。
 例のトモユキが壊した道祖神の破片はその畑に埋めて基礎として今も駐車場の地下に眠っている。
 古民家が全焼してしまった今となっては駐車場だけあっても仕方ない。
 だから、今度は駐車場スペースも使ってちょっとしたリゾートマンションにしてしまおうと思っている。
 なんならそのまま中国の金持ちに土地ごと売っちまえばいい。買い手ならきっとすぐ見つかるさ。

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