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またお願いします

僕は荷物を配達する仕事をしている。

3年ほど前、まだ会社に入りたてで地形も覚えておらず

常に地図とにらめっこをしていた。

入社から3〜4ヶ月は経っていたものの、方向音痴と生まれ育った都市でもないため

覚えるのには時間がかかった。

新入りが入ろうと入らまいと繁忙期はやってくる。

1日200個近い個人宅の配送。

先輩が助けに来てくれるまで、できる限り荷物は減らしたい。

が、配達してもお客様はご不在。

200件配達予定でもお伺いする回数はは250件みたいな感じ。

「はいはい、ここも夜しかいないしね。ここは土曜の午前しかいないし」

もう、繁忙期を10日も過ぎればみんな完全にヤケになってた。

その日の夕方、平月には滅多に荷物の来ない(僕はこの時初めてお伺いした)お客様のところにお歳暮が来ていた。

チャイムを鳴らす。

ぴんぽーん

チャイムを鳴らす。

ぴんぽーん

「はいはいご不在ですね。」と

ご不在連絡票に名前をなぶり書きしていると、

「おー、開けて開けてー」

と家の中からおじいさんっぽい声が聞こえた。

こういう場合、大抵は

「荷物そこに置いて、サインしといてーご苦労さーん。」

というのが大体のパターン。

しかしその時は玄関を開けると

きちんと印鑑を手にたたずむおじいさん。

パターン狂ったせいでちょっとビクッとなりながら

「こんにちわ、山田 三太郎さん?神奈川県の佐藤さんからお荷物来てましたよ〜」(仮名)

と声をかけた。

すると、

「おぅ、佐藤かぁ昔の同僚からだなぁ。」とおじいさん

「そうなんですかぁ、したらここの丸いところに印鑑押してもらえます?」といそいそとおきまりの台詞を言うと、

「随分急いでんなぁ、いつもくる奴ならジジイの長話付き合ってくれんなになぁ」と返す言葉が難しい返答が…

しかし、繁忙期をきちんと理解してくれているようで

「忙しい時期だもんなぁ、ここに押すのか?」と

すごく立派な銀行印を押してくれた。

「ありがとうございます、またお願いします。」とこれまたお決まりのセリフを言い、玄関を閉めた。

この時はいつも通りの流れだったので全く気にしてはいなかった。

それから4日ほど経って、その荷物を出した人から会社のコールセンターに連絡がきた。

「荷物が配達完了になっているが、どこに配達したのか?至急折電願う。」と

僕は意味がわからないのでとりあえず出し人様に電話。

内容はこんな感じだった。

荷物を出したが、受け人が2年前に亡くなっていたことを思い出し

返品を頼もうかと思ったが配達完了になっていたので山田三太郎さんの家の裏に息子夫婦がいるので

そこに配達したのかと連絡をしたところ、受け取っていないとの事。

僕はそもそも亡くなっている事も、裏に息子夫婦がいることも知らなかったので、何かの勘違いだと思い

「すいません、きちんと印鑑を頂いて配達しました」と答えた。

こういう場合、配達員が荷物を誤配、もしくは置き配(荷物を玄関先に置いてくる)を疑われる。

とりあえず調べるということで保留。

先輩に話すと、「うん、アソコはとっくに物置になってる。誤配したんだよ多分。」と

本社から配達票の写しを取り寄せたところ、やはりあの立派な押し印がされていた。

すると今度は受け人の息子夫婦からの連絡が入り、荷物が故人の家の玄関に置かれていたとクレームが。

とりあえずその配達票の写しをもって息子夫婦の家へ。

その配達票をみせて、印鑑を確認してもらったところ

「あれ?これ親父の印鑑だ」と息子さん。

そういった後、部屋の奥にいきゴソゴソ。

すると、その印鑑をもって息子さん登場。

完全一致。

どうやら高額な物らしく、形見としてお仏壇の下に入れていたということ。

この件に関わった人間全てが???となっていた。

結局、荷物に異常もなかったので息子夫婦が出し人様に連絡して一件落着。

会社からの僕への疑いは晴れなかったが、息子夫婦いわく

三太郎さんはネコのマークのウチの会社が好きだったらしく、昔はよく物販を買ってくれたり

僕たちが伺った時用のコーヒーも準備してくれたりしていたらしい。

なので久しぶりにきたネコのマークに嬉しくなって化けて出たのではないかと

少し寂しそうに笑いながら話してくれた。

僕らの勘違いかもしれないが、そういうお客様は大事にしたいとその時思った。

いつも流れで出すセリフを

その帰り際、息子夫婦と三太郎さんに心を込めて言った。

「またお願いします。」と。

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