お盆のお客様

お盆はご先祖様が帰ってくる 。

明け方だったと思う 。

なんとなく目が覚めて体を起こすと、部屋に30歳くらいの男の人がいた 。半分透けている 。人間じゃない 。

でも、きちんと着物を着て 黒い足袋を履いている 。身なりが綺麗で 悪意を感じない 。

仏さんが訪ねてくるのは 珍しいことではないので 、とりあえず話を聞くことにした。

手に綱を持っていて綱 の先には黒い堆肥の山があった。( 農家ではよく見かける牛糞や馬糞を発酵させた肥料)

「 なんで部屋に堆肥持ってくるの?」 思わず言ってしまった。

荷物を持って訪ねてくる方は初めてで 、しかもウンコの山と一緒にって誰だよ??と思った。

でもよく見ると堆肥にギョ ロっとした目があった 。耳が動き鼻輪に綱が結んである 。牛!

堆肥じゃなくて黒毛の牛ですよ!

狭い部屋に私と、大人一人と牛一頭。霊とはいえ3Dなので 圧迫感が半端ない。

牛だと気がつくと体のラインがはっきりし、足踏みしながら 尻尾や 頭を振り出し 、大きな黒い牛で 部屋がいっぱいになった。

男の人が引き綱をにぎり、牛はおとなしくなった。

「 誰?何で牛を連れてきたの ?どこの人? わからないよ?」

男の人は穏やかな顔で立っていたけど、私が

「 わかった!!もしかして△△爺ちゃんの家系か?」( 私の父方の祖父、本家の婿養子)

と言うと 、スッと消えた 。

牛を置いて。

「 牛、牛は?!待ってよ!」

私はびっくりしてベッドか立ち上がった。

立ち上がった所で男の人が再び現れた。私は少し安心して

「 ダメだよ!お兄さん!牛連れて帰ってよ!」と言うと。

男の人が横に目配せした。

80歳位のお婆さんが立っていた 。

顔をまじまじと見ると 母の実家の仏壇の上に飾ってある遺影の婆ちゃんだった。

「 はい!はいはい !お母さんの実家の写真の婆ちゃん! わかったよ !で、お兄ちゃんと牛は何したの?」

と聞いたらニコニコと微笑み 牛の尻を撫でながら 会釈した。

『寺さ行くなだぁ』 とだけ言った。 二人は揃って会釈すると牛を連れてスゥーっと消えた。

皆んな居なくなると部屋がガラ〜ンと広く感じた。

次の日母に

「 ちょっと!今朝の暗いうち、黒い牛を連れた男の人が 、お母さんの実家の遺影の婆ちゃんを連れて出て来たんだけど、お母さん何か知ってる?」と聞いた。

母は、私のメチャクチャな話を一通り聞き終わると

「 牛は黒毛和牛だな。 昔飼ってたんだ 。男の人は、若くして死んだ爺ちゃん。女の人は長生きして家を守ってた婆ちゃん。二人は夫婦なんだよ 。本当に来たんだ 。うわ〜。」

と、驚いていました。

私から見ると、母方の曾祖父と曾祖母でした 。曽祖父は 若くして亡くなった為、遺影も若いのです。

思い出も語られず、自分に気がついてもらえないと考えた末に、黒毛和牛と一緒なら、母の実家の先祖だとわかってもらえると思い、牛を連れて来たようです 。

私に「誰?わからない」と言われ 、牛を置いたまま急いで曾祖母を呼びに行った様です 。母にも曽祖父の記憶はなく、曾祖母の方にはとても可愛がってもらったそうです。

30歳の旦那と80歳の嫁では夫婦にはみえなかったけど、幸せそうでした。

お盆には、たとえ見えなくても亡くなった方々が会いに来てくれているのかもしれません。

皆さんの所にも、きっと行っているのだと思います。

朗読: モリジの怪奇怪談ラジオ

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