これはバイクでソロキャンプを趣味としているボクの友人Aから聞いた話です。
その日も、いつものように大型のアメリカンバイクにまたがり、 10キロ近くもあるキャンプ道具を背負って山道を走っているところでした。
どれくらい走ったか、舗装もされていない道を進んでいると、 うっすらとモヤのようなものが立ち込め、Aはスピードを緩めました。
しばらく行くと、何やら村らしきものが見えてきます。
村と言っても、人の気配があまり感じられません。廃村というやつでしょうか。
もしかすると、誰か一人くらいポツンと暮らしているかもしれません。
「この先、雨になる可能性もあるな」と思い、Aはいったんその村に立ち寄って、 どこかの家の軒先でも借りて野営しようかと考えました。
もし廃棄された空き家でもあれば、テントよりそっちの方が雨が防げて楽そうです。
村の入り口付近と思われる場所に着くと、バス停のような小さな小屋が目に留まりました。
木でできた古い屋根付き小屋に長テーブルが置かれ、そこに野菜などが置かれていました。 いわゆる「無人販売所」というやつです。
「へぇ~。じゃあやっぱりどこかに人がいるのかな?」
そう思いながら並んだ野菜を見てみると、 下手な字で書かれた値札がついています。
「人人5本百円」(ニンジンがヒトヒトって書いてある……)
「人頭かぼちゃ百円」(確かに人の頭ほどもあるカボチャだけど、気持ち悪い名前だな……)
「じゃがいも5個百円」
他にもトマトやきゅうり、茄子などがありましたが、 トマトは熟しすぎて潰れて血のような赤い汁が流れているし、 キュウリやナスはもう水分がぬけてしなびています。
もしかすると最後に置かれてからけっこう日がたっているのかもしれません。
でも日持ちのするジャガイモやカボチャはまだまだ平気に見えます。
「そうだ、ジャガイモをホイルにくるんで火にかければホイル焼きが食えそうだな」
そう思い、Aはジャガイモを手に取りました。 すると、なんだか感触が柔らかい。
「アレ? やっぱ腐ってんのかなぁ……」
Aはアーミーナイフを取り出し、じゃがいもの皮を少し剥いてみました。
すると中から生卵の白身のようなぶよぶよしたものが見えてきました。
「えっ……じゃがいもって腐ったらこんなふうになるのか?」
さらにナイフの刃を入れていくと、白身部分があふれるように出てきて、 そこには血管のような赤い筋も見え、やがて黒い部分が現れると、ぐるんと動きました。
「うわっ!」
Aは思わずそれを地べたに放り投げていました。
じゃがいもの中身は大きなぶよぶよした目玉でした。
「な、なんだこれ気持ち悪!」
Aはジャガイモをもう一個手に取ると思い切り地面に投げつけました。
それはまるで卵のようにぐしゃっとつぶれ、中からは液体とともにやはり目玉が飛び出してきました。
「わわわ、なんなんだコレ」
吐き気と震えがAを襲います。
あまりのことに無人販売所に並べられた野菜たちをもう一度見返すと、 ジャガイモの値札には「じゃがんいも」と書かれているのに気が付きました。
「じゃがん……いも?」
そして隣のカボチャにも目が行き、思わずカボチャも地面に投げつけてしまいました。
バコっという鈍い音とともにカボチャは割れ、中から長い髪の毛にくるまった人の頭が転がりだしてきました。
Aはもうそこで立っていられず、へたり込んでしまいました。
本当に人の頭なのか、こわごわもう一度よく見ていると、先ほどの目玉がズルズルと動いて カボチャから出た頭に向かっています。
頭には目が無く、黒くくぼんだ穴だけがあいています。
「ああぁぁぁぁ!」
Aは言葉にもならない叫び声を発し、なんとか立ち上がろうともがきました。
あの目玉たちが頭の目の部分に収まった時、もっと恐ろしいことが起きる気がして、 とにかく早く逃げなくてはと、その一心で体を動かしました。
キャンプ道具もすべて置き去りにしてバイクに飛び乗り、エンジンをかけて急発進しました。
そこからどう走ったのか、Aはまったく記憶がないそうですが、 街が近くなってきたとある交差点で交通事故を起こしてしまい、 Aは警察に逮捕されました。
その時のAは取り乱しており、訳の分からないことを口走り、 しかもアーミーナイフを持っていたことで銃刀法違反も疑われました。
後にキャンプ用だと説明したのですが、そもそもキャンプ道具一式を捨ててきてしまっているので説得力が乏しいのだとか。
実は今、Aは精神病院に入院しています。
支離滅裂で、時に興奮して叫ぶAを警察は薬物検査や精神鑑定にかけたというわけです。
ボクはAの入院した病院に面会に行き、この話を直接聞いて今帰ってきたところです。
ボクにはAが狂っているようにはとても見えませんでした。
早く真相が明らかになってAがまた自由になれることを願っています。