それ、嘘なんですよね

 これは、私が体験したお話です。

 私が大学の実習で精神病棟で学ばせてもらっていた時のことなのですが、僕が担当させて貰っている患者さん、ここではA野さんとさせていただきます。
 A野さんは30歳の男性で双極性障害の患者さんで、うつ状態の時は気分がぐーんと落ち込んでしまい、こちらの話に何一つ返答がないのですが、躁状態の時は楽しく矢継ぎ早におしゃべりしてくれる方で、いつも笑顔で沢山のお話をしてくれるんですが、A野さんは躁状態の時は虚言癖があり、よく、僕にも楽しそうに嘘のお話を聞かせてくれるんです。
 でも、僕はそんなA野さんのお話が好きでした。
 嘘は付くのですが誰も嫌な思いをしないし傷つけないし、こちらが「嘘でしょ?」と問うと「バレてしまいましたか」と言って、また違う嘘話を聞かせてくれる。そんな人でした。
 実習の最終日、いつものようにA野さんと面接をして、今日1日の目標と作業内容を決めていくのと、 少し雑談をする時間の時。
 その日は躁状態の時だったんですけど、急に真顔になり、このように僕に話してくれたんです。

 キラピカさん、今から話すことは全て嘘なんです。
 僕は、小学3年の時からずっといじめられて来ました。
 初めはイジり程度だったんですけど、どんどんエスカレートしていき、みんなの前で服を脱がさせれて、僕のからだに罵詈雑言をカラースプレーで書かれたり、虫を弁当の中に入れられたりしたんですよ。
 いじめは高校まで続き、手首をリスカに見えるようにクラス中のみんなから1回ずつ切られて、その傷口にこれを塗って置けば治るからと大量の塩を塗られたりと散々な目にあっていました。
 ずっと耐え続けていたんですけど、やっぱり限界を超えてしまって、高校2年の夏休みに、 私を特に執拗にいじめていた、「B村」「C林」 「D島」が許せなくてね。
「B村」には交差点で後ろから背中を押してトラックに轢かれて殺したんですよ。
「C林」には家に火を付けて、家族諸共殺したんですよ。
「D島」には大好きな彼女を目の前で何度も滅多刺しにしたその包丁で同じように何度もめった刺しにして殺したんですよ。
 そこからなんです、僕の高校生活は一変したんです。
 嘘のようにいじめはなくなって、それだけではなく僕は学年1番のマドンナの「E美」を彼女にできて、いじめていたやつらは手のひらを変えたように、みんな僕と仲良くなって行ったんです。
 そのまま、僕は「E美」と24の時に結婚して、26歳の時には待望の男の子しかも双子が生まれたんですよ。
 仕事も順調で、3人をこの手で殺してから僕の人生は順風満帆になったんですよ〜。
 でもね、そんな幸せの日はそう長くは続かなかったんですよ。
 ある日子供を寝かしつけて、眠りについた時夢を見たんです。
 その夢の中ではあの3人が僕の前に現れて、 僕に向かってこうゆったんですよ。
「あ〜これでようやくお前に復讐できるわ〜。お前今まで幸せやったやろ、よかったな〜でも 残念俺たちがまた壊したるわ笑笑」って言って、その笑い声で目を覚ましました。
 起きるともう、嫁と子供は家にいませんでした。
  嫌な夢を見たなと思い自分も出勤の用意をしている時に電話がなりました。
 電話に出ると、警察の方からで「たった今お子さんがトラックに轢かれて病院に送られました、急に奥さんが交差点に子供と待っている時にお子さんの背中を押したのを近くにいた、何人かが目撃していて、今署で事情を聞いています」 と。
 言われてパニックになって、とりあえず病院に行くと、もう手遅れで2人の子供は息を引き取っていました。
 その後署に行くと、E美は1度帰宅して色々な手続きをとるためにパトカーで家に向かって少し遅れて僕も我が家に向かいました。
 そうすると外にいる警察官が「奥さんが30分ぐらい出てこないんです」と言われて、色々と聞きたいこともあったので「おい、E美お前何してんねん」って言いながらリビングと廊下を隔てるドアを開けると、そこには自分のことを何度も滅多刺しにして死んでいるE美がいたんですよ。
 僕は、あの夢を見てから大事なもの全てを、 奇しくも自分が殺した2つの方法で死んだんですよ。
 あとは、僕の家が燃えるか僕自身が燃えるかして、あいつらの復讐は終わるんですよね。

 ……って言った後にフッと笑って 「まぁ全部嘘なんですけどね」と話してくれくれたんです。
 今では実習も終わり、A野さんがどうなったかわかりませんが。
 今でも、ニュースなどで家事や焼身自殺を見ると ドキッと知っちゃうんです。
 ちなみに、A野さんがなぜ、精神疾患を患ったのかというと、妻子との死別が大きな原因なんです。

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