夜の学校で

 皆さんは夜の学校に入ったことがあるでしょうか。
 今は学校にもセキュリティーサービスが導入され、忍び込んで肝試しをしたりするのは難しいですが、怪談やホラー映画の舞台として挙げられる場所であり、尚且つ一番身近な心霊スポット・肝試しスポットであると思います。
 これから話すのは、そんな夜の学校で起きた不思議な出来事です。

 数年前、私が高校1年生の時の実体験です。
 私の通っていたC県の高校は、地元では有名な進学校でした。
 倍率もそれなりに高く、財政面では困ってはいなかったように思いますが、建物や施設はかなり古かったです。
 当時、私はソフトテニス部に所属していました。
 ソフトテニスの大会は少し遠い場所で行われるため、金曜日に早退して前泊し、試合結果にもよりますが、土曜日か日曜日に帰ってきていました。
 その時も、大会があったため早退して大会の会場に向かいました。
 そしてその日の晩、荷物を確認していたところ、数学の問題集を学校に忘れてきてしまっていることに気づいたのです。
 あいにく、次週は期末考査があり、月曜日には数学のテストがあるため、課題を提出する必要があったのです。
 皆は大会が終わった後に自宅へ直帰する中で、私は高校に寄らなければならないことが確定しました。
 その時は、「高校の最寄駅は自宅の最寄駅の隣なので、ダラダラ歩いても1時間くらい帰るのがおそくなるだけだろう」、などといった「面倒臭い」と思う気持ちの方が優っていました。
 そして、結果も振るわぬまま大会が終わり、期末考査もあるため、次の日の試合の観戦はせずに、私たちは帰宅することになりました。

 そうして皆が家に帰る中、私が高校に着くと時刻は7時半をとうに過ぎていました。
 もちろん、辺りはもう真っ暗で、駐輪場にはもう自転車は無く、職員用の駐車場にも車は2台ほどしかありませんでした。
 そして何より不気味なのが古びた校舎です。
 2回の職員室に灯りはついているものの、そのほかの階や教室には1つも電気がついている場所はありません。
 そんな真っ暗な中、自分の教室がある3階の教室まで行かなければならないと思うと、面倒臭さを恐怖心が塗り替えていきました。
 誰もいない昇降口を通り、階段を登り終えると右は壁で、左には女子トイレがあります。
 私の高校はフロアの両端にトイレがあり、男子トイレと女子トイレの間には普段私たちが使っている教室がいくつも並んでいます。
 トイレに入るにはドアは無く、駅のトイレなどをイメージしてもらえると一番近いと思います。
 当然、廊下や教室、トイレには光は灯っていません。
 普段生活している場所であるにも関わらず、そこは物音ひとつ聴こえない、気持ち悪くなるほど息苦しい場所でした。
 一刻も早く校舎から出たい私は早足で教室に向かい、問題集を引っ張り出し、ドアも閉めずに教室を飛び出し、階段を降りようとフロア端の女子トイレの前を横切りました。
 その時、女子トイレから便器を洗浄する音が聞こえたのです。
 足が止まりました。
 先にも述べた通り、私の学校は古く、便器の自動洗浄機能なんて優れたものは存在しません。個室の扉も木製です。
 ということは、誰かが中にいなければ水が流れるはずがないのです。
 しかも、行きに通った時にも見ましたが、相変わらず女子トイレには電気はついていないのです。
 もし、学校に残っている職員さんならば、職員室前のトイレを使うはずです。
 そして何より、私が困惑して立ちすくんでいるのにも関わらず、個室の木製のドアを開ける音も、誰かが服装を整える音も聞こえません。
 何とかしてこの状況に理由を付けて納得しようとしますが、できませんでした。
 ようやくこれは本当にヤバいやつだと思い、私は考えることを辞め、階段を駆け下り、逃げるように校舎から出ました。

 月曜日、学校に行った際には普段通り、女子トイレからはキャーキャーと女子たちが他愛無い話に花を咲かせている様子が伺えました。
 今回の私は運が良かったのか、何も見てはいません。
 もう少し待っていれば、見回りの先生が出てきたのかもしれません。
 これは心霊現象ではなかったのかもしれません。
 ですが、殺人現場や自殺スポットなどといった心霊スポットに行かなくとも、奇怪な現象は夜の訪れによって、身近な場所でも体験できるものなのかもしれません。

 恐ろしい幽霊を見た、という体験ではないのでそこまで怖くはなかったかもしれませんが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。
 学生さんも社会人の方も、忘れ物にはお気をつけてください。
 取りに戻ったらそこは、いつもの慣れ親しんだ場所ではないかもしれません。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ


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