額の三番眼(サードアイ)

私達兄妹は、御行寺にお世話になっている。

寺は小さい。

だから本山の一番大きな台帳にしか名前が載っていないそうだ。

私はある出来事を境に憑依体質になってしまった。

夢の出来事がリアルタイムの現実と重なっていたり、生々しい事がおきる。

額の三番眼が開いた為だろうと、一番先に相談した霊能者に言われた。

回りに迷惑を掛けず、必要な物だけ見聞き出来る様にする為、御行寺にお世話になっている。

私は寺の人が全員【見える人】だと思っていた。

でも違った。

勘違いしている私を見かねたのか、亡くなった先代住職が夢に出て来て、

「いいか、無駄口を聞くな。何を言われても決っして持ち上げられるな。」

と、諭してくれた。

生前、先代住と私は話をした事がない。

夢の中で先代住職は、いつも真っ黒に煤けた護摩堂で話をしてくれた。

「亡くなった方の言葉を手紙の様に携え、お渡しするのが役目。それは特別な事ではない。その役目を負っただけの事だ。」

と言っていた。

その事を、庵主様(先代住職の奥さん)に話したら、それは先代住職の生前の言葉だったとわかった。

これは、そんな私の役目の話。

その日は、御世話になっている寺の御行の日だった。

兄と二人で山の寺に登っていた。

私達のお世話になっている寺では、月に10日21日28日を縁日とし、本堂にて有縁無縁一切の霊位を弔い、依頼があれば追善供養や加持祈祷など一般の方の御祈願もしている。 

御行が終わり御挨拶をしていると、庵主様から兄が呼び止められた。

「 あなた、目の充血が治ったね。きっと御利益ね。 よかった。 」

そう言って頂いた。

兄は常に血走る様な目をしていた。

そんな兄の目の充血が確かに治っていた。

庵主様にお礼と挨拶をし、法衣を着替え車に乗り、山道を降りようとした時だった。

ズドンと額から何かが体に入って来た。

「止まって!車を寄せて!何かに入られた」

急に大きな声を出したので、兄は驚いていたが車を止めてくれた。

目がかすみ息が上がり、しびれる様な独特な感覚が体に走った。

「強いのが来た。山から下りないで。」

手に負えない時は住職に報告し、護摩堂行きだ。

兄は動揺して「切るか」と印を構えた。

兄は私に良くない者が憑依したら、口伝九字を背中に切る様に言われていたのだ。

私は「暴れたら切って。確かめる。」と言った。

話しかけて来る魂の善悪を確かめる事は大切なこと。

騙されない様に何者が来たのかを見極めなくてはならない。

何かが入った位置は、本堂と稲荷堂を結ぶ線の上だった。

双方の仏神に挟まれ、すぐ近くには護摩堂がある護の強い場所。

こんな場所で、額の三番眼に飛び込む事が出来る者は神仏に縁がある者。

悪霊ではないと思った。

『誰や?何が言いたい?』

頭の中で問いかけた。

映画の1シーンの様に、頭の中にスクリーンが現れ、田舎の寺が見えた。

男の人が石灯篭に手を掛け、本堂と庫裡(僧侶の居住する場所)の方を見ながら門の辺りで倒れ込んだ。

場所は寺本堂の正面。

御本尊様の御前だった。

その男の人が鮮やかな法衣を着て現れた。

その顔は嬉しい様にも心配している様にも愛しい様にも見えた。

そして何より、そこは知っている寺だった。

考えた末【口を貸す】事を決めた。

「言いたい事があります」と兄に伝えると、意識が腹の辺りまで押し下がり、その人が私の体の上の方に入った。

人とは思えないほど力が強かった。

私は泣きながら兄に話しかけた。

「『目、良かったな。俺は、俺は、母ちゃんの側にも子供達の側にも居てやれなかった。だから、お前は体元気で長生きして、K美の側に居てやってくれ。俺は、俺は、K美が一番かわいいんだ』」

《思い》が体になだれ込み、涙がボロボロこぼれた。

住職を務める寺も奥さんも娘達も、全部残して早く死んでしまった事。

娘達が結婚して本当に嬉しかった事。

自分が妻を残して死んだ様に、可愛い娘を一人にしないでほしい事。

俺の代わりに共に生きてほしい。

健康で長生きして側にいてやってほしい。

目、治って良かったな。

話が終わると兄は「はい、わかりました。」と、目を見開いて悟った様に言いった。

それを合図に、私の体からスッと霊が抜けた。

霊が抜けると、体の遺物を吐き出す様に咳が出た。

死んでいる為か、ほとんど呼吸をしないでしゃべるので、息が続かず苦しかった。

「今、抜けました。私は妹です。戻りました。」胸をドンドン叩きながら言った。

兄は「ご苦労さん」と、テイッシュをくれた。

「兄ちゃん今の人、誰だかわかるか?」と聞くと。

兄は「K美ちゃんの父さんだ。」と答えた。

K美ちゃんは兄の嫁さんです。

お寺から嫁いで来ました。

お父さんは御坊さんでした。

三人姉妹の真ん中で、一番父親に似ているそうです。

高校生の時に、お父さんは突然倒れて亡くなったと聞きました。

亡くなったお父さんの言葉を伝えると、やっぱり泣いてしまいました。

お父さんは生前「お前が一番かわいい」と言っていたそうです。

K美ちゃんも兄ちゃんも元気です。

三人の孫も元気です。

甥っ子達が大人になったら、この話をしてあげようと思います。

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