ぽつんと佇む店

 これは私が小学4年生の時のお話です。

 夏休みということもあり、従兄弟のAが私の家に遊びに来ていたのですが、Aの両親が私の家にAを迎えに来られなくなったため、私と母がAの家まで送ることになりました。
 送る当日、皆でドライブしながら行こうとなり、通ったことのない山道を通ることになりました。
 山道はパーキングエリアや店が途中にあるような道ではなく、寂しい感じです。
 が、晴天ということもあり気持ちがよく、皆で楽しくお喋りしながらドライブをしていました。
 しかし、山の天気は変わりやすいのでしょう。
 山道に入って十五分もしないうちに、嵐に変わりました。
 雰囲気がガラッと変わってしまい少し不気味さまで感じました。
 途中私はトイレに行きたくなってしまいましたが、山道です。
 コンビニなど立ち寄れるところがないため、我慢をするしかありません。
 三十分程して、山小屋のような小さな店がありました。
 明かりがついていたため、トイレを借りようと母に止めてもらいました。
 母もトイレに行きたいとの事で、一緒に店に入ろうとした時、母はやっぱり辞めておこうと私に言って来ました。
 ですが意味もわからず漏れそうになっていた為、無視して猛ダッシュで店に入りトイレに駆け込みました。
 用を足し終わり店員にお礼の挨拶をしようとトイレから出た時、母が何故辞めておこうと言っていたのかが分かりました。
 まず沢山棚があり、店のはずなのに棚には何一つ商品が置かれていないのです。
 もう1つはお婆さんです。
 笑っていたのです。にたにたと……。
 その瞬間鳥肌がたち「あ、やばい」と本能が悟ったのでしょう。
 お礼を言って出ようとしたとき、そのお婆さんが話かけてきたのです。
 そのお婆さんは「今日はいい天気ねぇ」と言ったのですが、外は先程から嵐です。
 話を合わせようと思い「そうですね」と返し店を出ようとしたときです。
 お婆さんが私の左手を掴んでいました。
 私は内心「ああ、これはダメだ」と思ったとき、車で待機していた母が店に入ってきて私の腕を掴んで車まで引いていってくれました。
 車に乗ると母は何も言わずただただ逃げるように車を走らせました。

 そして二時間が経った頃、やっと山道を抜け車が通るような道に出ました。
 やっと私は口が開いて、あれは何だったんだとすこしパニックになってしまいました。
 何とか従兄弟に家に着いて安心してどのくらい経っていたのかと時計を見ました。
 おかしい、私の家から従兄弟の家までは百キロ以上離れているのです。
 私は三時間くらいでついたかなと思っていました、が違いました。四十分しか経っていません。
 私と母、従兄弟のAはもうあまり考えるのは辞めようということになりました。
 もしあの時あのままお婆さんに腕を掴まれていたらどうなっていたのか、また何故時間の流れが遅かったのかなど今考えても鳥肌がたちます。
 これは青森県の八甲田という山の裏通を通った時の私が体験した実話です。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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