友引

 10年ほど前の話 仕事の休憩中、職場に配属されてすぐの女性の後輩に、「何か怖い話あるー?幽霊見たとかさ〜」と仲良くなりつつネタ収集のために話しかけた。 
「怖い話ではないんですが、幽霊に助けられた話ならあります!」と、語ってくれた。

 後輩のOさんは、新卒ではなく、高校卒業後公務員予備校に通いながら深夜アルバイトをしていたそうだ。
 接客が苦手な彼女は、道路工事の誘導員のアルバイトをほぼ毎日やっていたそうだ。
 日中は、予備校、少し仮眠して深夜の棒振り。日々睡眠が満足に取れないまま疲れが溜まっていったそう。  
 そんなある日のこと、高校時代に仲良かった友人が突然電話をかけてきた。
 懐かしさと嬉しさもあったが、寝不足のOさんは電話中うとうとしてしまった。
 そんな時 「どうして助けてくれなかったの」
 突如頭の中に響き渡った友人の声に、Oさんはハッと目を覚ました。  
 寝ぼけていたのだろうと思い、翌日にはすっかりそのことを忘れてしまっていた。

 その日の夜、昨夜電話していた友人が自殺したとの連絡を受けた。
 程なくして葬儀を終え、車でアルバイトに向かっている途中、ふと電話の声を思い出した。  
「どうして助けてくれなかったの」
 友人は電話してきた時すでに自殺を考えていたのだろうか。
 私に相談したかったのだろうが、本当の気持ちが言えなかったのだろう。そんな彼女の魂の声が聞こえたのだろう。
 そんなことをボーッと考えていた。
 すると突然、強い眠気に襲われた。
 これはやばい。事故る。 そう思った彼女は、近くのコンビニに駐車し、少し仮眠をとることにしたそうだ。  
 携帯のアラームをセットし、Oさんは仮眠をとった。
 プァァアアアアアーーーーップァァアアアアアーーーーッ!!!
 突然大きなクラクションが鳴った。
 コンビニで仮眠をとっていたはずのOさんは、気がつくと道路の真ん中を走っていた。  
 後ろの大型トレーラーがクラクションを鳴らした様だ。
 わけがわからなかったが、急いでウインカー、ハザードを出してOさんは路肩に止まった。
 コンビニで仮眠してたはず…
 すると、けたたましく携帯のアラームが鳴った。
 Oさんの話を聞いてた私やまわりの先輩たちは、固まっていた。
 なぜなら、当の本人はその話をとても穏やかな表情で話していたからだ。
「それでね、私思ったんです! ああ、亡くなった友人が私が事故にあわないように助けてくれたんだって!」
 Oさんはとても嬉しそうに話していた。 そこで黙っていられなくなった私は、 「え、ちょっと待って、意識ないままコンビニから道路に進んでたんでしょ?」
「そうなんです。勝手に進むとか怖いですよね〜」 
「クラクションの音で起きたんだよね?」
「そうです! 友人が、助けてくれたんです! 起きて! 危ないよって…」
 その場にいた人たちはざわついていた。
「それって、友達があなたを同じ所に引っ張ろうとしたんじゃないの?」
 私がそういうと、Oさんはパニックになったようで、思わず椅子から立ち上がり、「え、えっ、そういうこと!? ずっと助けてくれたんだと…」
 真相はわからないが、この事を伝えて良かったのか今でもわからない。

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