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​白昼の悪夢

遠い昔 大学構内での体験談。

 午前中の講義も済んで、友人のサハラとタカハシに昼飯にさそわれた。

ゴールデンウィークボケもおさまった天気の良い5月のことなので

学食で飯を喰うより、コンビニで何か買って 近くの河原に行くことにした。

たいして大きな川でもないが、橋を渡った対岸には気持ちのいい緑の土手がある。

土手から300mくらい離れて 新緑のむこうに大学の建物が見えていた。

 コンビニ弁当を喰い終わって腹が落ち着くと、サハラは体育座りのまま

いねむりを始めた。

自分とタカハシが缶コーヒーを飲みながら話をしていると、

「うおおおお!たいへんだぁ!」とサハラが叫んで飛び上がるように立ち上がった。

「どうした?」

「びっくりさせんなよ サハラ!」

「飛び降りた! あそこ!あそこ!誰かが!誰かが!」

サハラは、人差し指をぶんぶん振り回して 木々の向こうに見える大学の建物の

屋上を示した。

「あれは‥‥何棟だろうな?」

サハラは走り出しながら「そんなこと言ってる場合かぁー!」と、大声で返事をする。

「あ、サハラ! ゴミ! ゴミ持ってけよ!」

「夢でも見たんじゃないのか? おーい!」

自分たちはそそくさと食い散らかしをまとめてサハラのあとを追った。

 行ってみるとそこは技術棟と呼ばれる建物だった。

建物の下には 植え込みがある花壇に花が咲き乱れ、木陰にあるベンチに腰掛けた

のんびり顔の学生が2~3人いるだけで、変事があったとは全く思えない。

「おかしな夢見てるんじゃないよー サハラわぁ」

「飯食っていきなり走らすんじゃないよ はいお前のゴミ」

サハラはかなり焦っていて、きょろきょろあたりを見回している。

「夢? あれが夢?」

信じられないといった風で サハラは技術棟のエントランスに飛び込むと、6階建ての

階段を屋上めがけて駆け上がりはじめた。

タカハシと自分はご丁寧にもついていったのだが、自分たち3人を待っていたのは

「立ち入り禁止」の札とがっちりかかった鍵で閉ざされた扉だった。

ひとつ下の階まで階段を降りたところで、ゼミの准教授と出くわした。

軽く会釈して通り過ぎようとしたとき

「キミたちどうしたのかな? 私に用でもあるとか?

 ん? サハラ君 具合でも悪いのですか?」と、声をかけられた。

これ幸い。 准教授の部屋で落ち着きをとりもどそうと、用事もないのに教授部屋に

おじゃますることにした。

なんとなくではあるが 話を聞いてもらいたい気持ちも手伝っていた。

 コーヒーをご馳走になりながら聞いたサハラの話では、あのときウトウトはしていたが

タカハシと自分の会話は ちゃんと聞こえていたのだそうだ。

話に加わろうとぼんやり顔を上げたら 技術棟の屋上に人がいるのが見えた。

男で、シアンブルーのTシャツに白っぽいカーゴパンツみたいなズボンをはいていて

こちらに背を向けているのも見て取れた。

「あいつ屋上の縁に立って まさか!?」と、思ったと同時に

そいつが両手を水平に広げて、後ろ向きのまま飛び降りた と、言うのだ。

「まるで水泳競技の高飛び込みみたいな感じでさぁ・・・」

 その時の自分とタカハシは、特に話に集中していたわけではないし

サハラと同じ方向を向いて座っていたのだから そんなことが眼前で起こっていたなら

気が付かないはずがない。

サハラの話を聞き終わった准教授は咳ばらいをひとつすると

「奇譚(きたん)ですねぇ 君たちはこの棟の真下だけ厚い植え込みがあるのは何故なのか

 考えたことがありますか?」と、訊いてきた。

自分たちは顔を見合わせて 首を横にふった。

「もう4年以上前の話ですが、実際にここの上から飛び降り自殺がありました。

 その事件のあとしばらくして、花壇の囲みと植え込みができたのです」

サハラが「その人が落ちたところに誰も立ち入らないようにしたということですか?」

と、たずねると

「そう、そういうこともあるでしょう。 訊いた話では、そこだけ自殺が続くので

 厚い植え込みはクッションの役目があるとも。

 途中にはサンシェードも各階にあるでしょう?

 他の棟にもあるので気づきにくいですが あれも後付けで クッションのひとつだと

 いう話です。

 おや? タカハシ君までどうしました? 少し怖い話でしたでしょうか?

 サハラ君、過去に事件があったとは言え 白昼夢だったかなぁくらいで

 あまり気にしないことですよ。

 君たちにはどこまでも 関係ないことですから」

そう言うと准教授は窓の外のどこか遠くを見つめた。

 准教授にお礼を言って 部屋を辞した。

階段を下りながら、学食でちょっと休むか?と、言いながら振り返ると

サハラの後ろにいたタカハシが 階段の手すりをしっかり握って低く言った。

「さっき 准教授の部屋の窓の外を シアンブルーのシャツ着たやつが

 上から下に通り過ぎたの 見た・・・」

自分には何も見えなかった。

2017/9/19  投稿者 てぬきのたぬき

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