あの子

私が高校3年生の時の話です。

当時、地元から離れた高校へ通う為に女学生専用の下宿に入っていました。

私は3階の1番端の部屋に住んでいたのですが、この部屋は階段やトイレからは1番遠くに位置していました。

私が3年生になった時、隣の部屋には2年生が、その隣には新しく1年生が入ってきました。

この1年生が少し、というか、かなり風変わりな子でした。

仮にSちゃんとしておきます。

身体は折れそうなほど細く色白、オカッパで分厚い眼鏡という見た目に加えて無口なこともあって、

Sちゃんは下宿内でポツンとしてることが多い子でした。

そして数ヶ月が経った頃、気になることが…。

それはいつもSちゃんの部屋のドアが少し開いていること、

そこから見える部屋の中が真っ暗なこと(廊下が明るいので余計にわかる)、

そして部屋の前を通るたびにそのドアが閉まること。

部屋の前にスリッパがあるので中にいるのは確か。

では真っ暗な部屋で一体何をしているのか?

そもそも開けたり閉めたりする理由は?

謎が深まるばかりだったある夜、友達との電話中にこの話題を出してみました。

すると友達が面白がって

「じゃあさ、そーっと音を立てないように近づいてさ、部屋の中見ちゃいなよ!」

と言うのです。

いやいやプライバシーもあるし、なんて言いながらも怖いもの見たさが勝り決行することに。

まずはトイレに行こうとするとやっぱり開いているドアが閉まりました。

部屋の中にSちゃんがいることを確認し、トイレから戻る時は足音をたてないように部屋に近づきました。

やっぱり少し開いているドア。

やっぱり暗い部屋の中。

目をこらして目線を腰の辺りまで下ろした時、悲鳴を飲み込むのがやっとでした。

目線の前に「目が」あったんです。

何事もなかったかのように振る舞い部屋に戻った後は半ベソをかきながら友達に電話しました。

それ以来私が卒業するまでSちゃんをなるべく避けていたのですが、

下宿を出る日に突然部屋から出てきて

「先輩優しかったので好きでした」

と言われてありがとうと返すのが精一杯でした。

後日談として、隣に住んでいた2年生とSちゃんについて話した時

「私あの子の部屋から体育座りしてる足が廊下に出てるの見たことありましたよ」

と聞かされて心底ゾッとしました。

Sちゃんが何をしていたのか、何をしたかったのか未だにわかりませんが、

本当に怖いのは人間だと感じた出来事です。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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