「先生ー!カイト君が転んで膝にケガをしました!」
小学生の頃、クラスメートのカイト(仮名)君は保健室の常連だった。
やれ校庭で転んだとか、木から落ちたと言っては、保健委員の私が付き添ってケガの手当てを手伝った。
その日は先生が居なかったので、私が代わりに応急手当てをした。
いつも先生がやっているのを見て覚えているから大丈夫。
まず、傷口をよく洗って、それから薬をかけるんだよね。
カイト君の傷口に薬をかけたら、そこが口みたいに開いた。
傷口の内側に、歯があった。 舌もあった。ガチガチと歯を鳴らし、ぱくぱくと口を開け閉めしている。
薬の泡で苦しんでいるように見えた。
「痛い痛い痛い! しみるしみる!」
カイト君は痛がって大騒ぎしている。
それに合わせて膝が騒ぐ。
『グッ、グッ、グルッ……ジィ……』
膝が喋った。
気持ち悪いので、もっとたくさん薬をかけたら、傷口は口を閉じて大人しくなった。
これでよし、と。