高校生の頃、補習で夕方まで学校に残っていた時の話。
先生がふと、こんな話をし始めた。
「紅さん、黒板に爪を立てて引っかいたことある? あれ、すごい音がするよね。
キキキキキギギギギギキキキキキィィィィィ…って。 ……でも、知ってるかい?
黒板は引っかいちゃダメなんだ。当たり前だろうって?
いやいやそうじゃない。黒板は優しく優しく撫でてやるんだ。
そうだね、できれば月夜の晩が良い。教室に誰も居ないような時間帯で。
窓から差し込むのは月明かりだけで、校庭には誰も居ない。
そんな時、黒板を指先で優しく撫でると歌うんだよ、黒板が。
それは綺麗な音でね、何と表現したら良いのか分からないけど。
この世のどんな楽器よりも素晴らしい。聞き惚れて魂を抜かれてしまうんじゃないかと思うくらいだ。
一度黒板の歌声を聞いてしまうと、もうどんな楽器も、どんな歌手も、黒板には敵わないよ。」
……先生、私にも聞こえるよ。
だけど、それは歌声なんかじゃない。悲鳴だよ。