幼い頃、祖母が言っていた。
「雪の花って、知ってるかい?あぁえ、それは雪の結晶だね。
私が言っているのは、雪の花だよ。
誰もいない、広ーい雪の野原にぽつんと一輪咲いているんだ。
それは大人の手のひらくらいの花を咲かす。
葉っぱも茎も花びらも、全部真っ白でね。青空の照り返しで、薄く青い影がさすくらいにね。
もし、見つけられたら、そっと下の雪ごと掘り返して、持って帰っておいで。
そしたら、冷たい水で綺麗に洗って、根っこごと茹でる。あっという間に影も形も無くなってしまうからね。
花の溶けたお湯で、お茶を入れて飲んでごらん。
一生、怪我も病気もしなくなる。」
教えてくれた祖母は、私が小学生の頃、亡くなった。
それまで怪我も病気もした事が無かったという。
祖母は雪の花で淹れたお茶を飲んだのだった。
雪の花を教えてくれた翌日、祖母はこんなことも言っていた。
「まれに黒い雪の花も咲くけど、それは摘んだらいけないよ。黒い雪の花は、じわじわと体を壊す毒だから。」
怪我や病気をしやすい体質に変わってしまい、一生苦しまなければならない。
何故か、長生きだけはするのだが。
人よりも長く生き、長く苦しむのが、黒い雪の花なのだ、と。