気をつけて

少し遅くなってしまった。

早くしないと、遅刻してしまう。

最近、朝はいつもギリギリで母の顔を全然見ていない。

「行ってきます!」

玄関のドアを開けながら言うと、台所から母の声が聞こえた。

「気をつけてね」

分かってるよ。あ、忘れてた。

「今日、帰ったらイオリやフウカ達と遊ぶから」

台所に向かって叫ぶと、すぐに返事が返ってきた。

「気をつけてね」

ほら、まただ。あれしか言うこと無いのかな?

学校から帰ると、すぐに宿題のプリントや筆箱をカバンに入れて玄関に向かった。

「行ってきまーす」

「気をつけてね」

母は、また台所から返事してきた。

「分かってるよ」……あれ?

「あのー、宿題はみんなでやるから大丈夫だよ」

「気をつけてね」

やっぱり、さっきから同じことばかり繰り返している。

そうだ、ちょっと違うこと聞いてみよう。

「お母さん、今日の晩ご飯何?」

「気をつけてね」

おかしい、何か変だ。

私は台所に向かった。

「ねぇ、お母さん」

台所には誰も居なかった。

台所だけじゃない、家の中に居るのは私一人だけだった。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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