書き初め

中学生の頃、三学期が始まって最初の授業は「書き初め」だった。

「書き初めだからね。みんなで何かおめでたい言葉や、今年の目標などを自由に書いてみましょう」

書き初め用の長い半紙が配られた。

私は墨汁を入れたすずりに筆を浸しながら考えた。

(うーん、なんて書こうかな)

初日の出、とか。希望、かな。

ありきたりじゃないのが良いなと考えたけど、結局思い浮かばなかった。

まあ、普通ので良いかな。

筆を握り直して〈希望〉と書いた、つもりだった。

でも私の筆先が勝手に動き始めて、半紙には〈絶望〉と書かれている。

私は慌てて半紙を丸めると、今度は〈初日の出〉と書き直した。

すると今度は〈お先真っ暗〉になっている。

隣の席のコヨミの半紙を覗き込んだら〈幽鬼〉と書いてあった。

「勇気、って書いたはずなのに……」

前の席のタケルのは、〈0点〉と書いてあった。

「百点満点、って書いたはずなんだ……」

出来上がった書き初めは、どれも不吉な言葉や実現してほしくない目標ばかりで、みんな困り果てていた。

「じゃあ、出来た人から順に集めます」

どうしよう。

縁起が悪い、ふざけるなって怒られる。

先生は集めたみんなの書き初めを見た。

「みんなよく出来ました。素晴らしい。ここに書かれたことが叶う一年になると良いね」

先生はそう言ってにっこりと笑った。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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