猛暑の日の話

知り合いの方に聞いた、その方の親族の方が体験した話です。

 

つい、先日全国的に猛暑の報道が続いておりました日 その方、Aさんは恋人の方と遊園地に遊びに行ったそうです。

そこには、手帳を開き「恵まれない子にご支援を」と片言で話す外国人がいたそうです。

そういうのを、放っておけないAさん。

恋人が止めるのを聞かず少額のお金を渡したそうです。

 

しかし、その場を離れ数分後 先ほどの外国人がもらったお金で自販機からジュースを買っているところを目撃し、それはそれはショックを受けたそうです。

恋人のBさんが呆れつつも、

そういうものはきちんとした団体や現地に直接渡した方が良いんだよ」

と諭しました。

 

それを聞いたAさんはあることを思いつきます。

ちょうどその遊園地は数年前の災害で大きな被害を受けた県にありました。

天然と言うべきか否か、

「今から海辺に行って、そこに住んでる人に直接何かを渡そう!!」

と大きな被害を受けた海岸線に向かいました。

 

恋人のBさんも、あまり乗り気では無かったようですが、先ほどの発言をした責任も感じ、共に向かったそうです。

海辺に着くと、そこには仮設住宅が並んでいました。

その内の一軒の前に、ぽつん、と赤ちゃんを抱っこしたお母さんが座っていました。

Aさんは早速声を掛けます。

 

「すみません、私達は県外から来たのですが、先ほどかくかくしかじかということがありまして、直接何かを渡そうと参りました」

「何かお困りのことや、欲しいものなど御座いましたか?」

すると、お母さんが答えます。

「あら、わざわざありがとうございます」

「そうですね…強いて言うなら粉ミルクですかね…」

 

お母さんの手元にはくたびれ古くなった哺乳瓶が握られてました。

お母さんは続けます。

 

「家も流されて、お父さんも流されて母子家庭になってしまって色々大変なんです」

元々、心の優しいAさんは涙を堪えながら話を聞き

「わかりました!!今すぐ粉ミルク買ってきます!」

と、コンビニへ急ぎ、粉ミルクを買ってきたそうです。

「わぁ、本当にありがとうございます。そこに置いてください」

 

赤ちゃんを抱いて、両手が塞がったお母さんの近くに粉ミルクを置き、

何度も感謝するお母さんに「いえいえ」と言いながらAさんとBさんは、その場を去ったそうです。

 

帰宅後、「良いことした!!」という満足気な顔で、親族のCさん(私にこの話をしてくれた方)にそこであったことを話したそうです。

赤ちゃんを抱っこしたお母さん お父さんは流されてしまった 炎天下の中、洗濯物を干していたCさんの汗が冷えていくのを感じたそうです。

Cさんはなんとなく聞きました。

「赤ちゃん、いくつくらい?お母さんどんな格好してた?」

Aさんは答えます。

「え、赤ちゃんは赤ちゃんだよ1歳も無いくらい。そうそう、暑かったのに長袖だった。日焼け対策かなぁ」

Cさんの洗濯物を干す手は止まり、暑さも忘れ、少し震えたそうです。

最後に問いました。

「その赤ちゃん、誰の子?」

そこまで聞いた私は、あの日を思い出しました。

 

数年前、あの春の足音が聞こえていた日はいきなり雪が降って、それはそれは寒くなったのを覚えています。

あのお母さんは、もしかしたら色んな事情がある普通の人なのかもしれないけれど、

もし、あの寒くて長袖を着ていた日で止まってしまっている人ならば 目の前で旦那さんが流され それでもどうにかして、

この子だけでもとずっと抱きしめ続けてるのなら どうにかして、

ミルクを飲ませたいと哺乳瓶を握りしめ続けてるのであれば どうか、

Aさんから粉ミルクを貰ったことで少しでも安心してほしいと心から願うばかりです。

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