カナダでの恐怖体験

 これは私がカナダにワーキングホリデーしていた時の話。

 入国当初はフィリピン人の家庭にホームステイさせてもらっていたが、市街地から距離が遠かったので2ヶ月経った頃、引っ越す事に。
 しかしカナダでの家探しは日本と違い、不動産屋ではなくインターネットの掲示板を使う。
 部屋を貸したい人がネットの掲示板で呼びかけ、借りたい人がそれに応じ、実際に内見してみて決める、というもの。
 要するに個人間でやり取りしなくてはならない。
 このシステム、日本で言う礼金がかからないなどメリットもあるが、デメリットもある。
 例えば、単純に面倒くさい。
 連絡を取り、自分をアピールし、会う約束が出来たら、内見、質問、そして一つの家に同時に何人も内見しに来るので、誰が部屋を借りられるかは後日オーナーが決める。
 借りられるかどうかしばらくわからないのだ。
 日本でいう不動産屋が仲介し、やっていた事を自分達で全てやる。本当に面倒くさいのだ。
 更に、お互い相手が本当はどんな人間か分からないまま会う事が多い。これは本当に怖い事だ。
 同じ国の人間ならともかく、海外ならなおさら。
 育って来た環境が違いすぎて、考え方が色々違うかもしれない。
 私は男なのでまだ良いが、女性は本当に怖いだろう。
 カナダで内見に行く際、恐らく誰もがこの恐怖を少なからず持っているだろう。

 私が部屋を探していた時期は8月、入れ替わりの多い時期。一軒一軒に人が殺到し何軒見ても中々家が決まらなかった。
 そんなある日、この日は幸運にも3軒、内見できることに。
 1軒目、便利な場所だが部屋が小さく汚い。
 2軒目、綺麗で立地も良い、しかし倍率が高そう。
 3軒目、少し古いが広めの部屋。場所も悪くない。
 そして3軒目を見終わった頃時刻は午後7時、電話が鳴った。男性の声だ。
「もしもし? 〇〇の家のオーナーだけど、家見たいって連絡して来てたよね? いつなら来れる?」
 電波が悪い上に早口で癖のある英語……。中々聞き取れないが、なんとか今日か、明日なら行けると答える。すると「じゃあこれから見に来てよ! 8時で良いよね? 細かい場所は改めてメールするね」
 8時と言うと今この場所をすぐ出てギリギリ間に合うかどうか。
 内心、マジかと思いながら、送られてきた住所を頼りにバスに飛び乗り移動開始。
 7時50分、バスを乗り継ぎなんとか間に合いそうだと思った時にメールが届いた。
「ごめん、8時15分にしよう」
 何でだ……と思ったが待つしかなく、内見するマンションの前で15分待機。またメールが届く。
「本当に申し訳ない、遅れたくないんだけど8時30分にしよう」
 そして8時30分、まだ現れず。
 結局8時45分にマンションの中からオーナーが登場。
 坊主で少し筋肉があり身長175センチ程の男性。握手を求められ謝罪された。
 マンションの中に入りエレベーターで12階へ。廊下を歩き部屋に案内される。
 部屋は3LDK、扉を開けるとキッチンがあり左手に2部屋、右手にはリビング、その奥が貸せる部屋だという。
 部屋といってもリビングをガラス戸で仕切っただけのもの。それにリビングではよくわからない曲が鳴り響いている。

 この部屋は嫌だ。
 そう思いすぐに出ようとするも、オーナーがいくつか質問したいと言ってきた。
「さぁ座って、僕と君は今日会ったばかりで、お互いの事を何も知らない。だからこの部屋を見に来た人みんなに簡単なインタビューをしてるんだ。まず、この部屋にはもう1人住んでいて今は眠っているみたい、オーナーは僕。僕は32歳、バーテンダーをしている。君は?」
 借りる気はないがなんとなくすぐ出るのも失礼かと思い質問に答えていく。
 するとオーナーが急に立ち上がり
「君は年齢の割に見た目が若いね! 僕とちょっとしか歳が変わらないのに痩せてて引き締まってる。僕の身体は少しダルダルさ。ほら!」
 と、いきなり手を掴まれ彼のお腹を触らせられた。
 この時点で、アレ?これはヤバイかも……と思っていたが、彼の話は続く。「お尻もダルダルさ!」
 お尻も触らせられる、見たら既に半分ズボンを脱ぎかけているではないか。
 更に、君はどうだい? と、ベタベタ私の身体を触り始めた。
 そのうちズボンの上から太ももを触るフリをして股間を触ろうとして来た。
 これはマズイと思い立ち上がると「僕の太ももも触ってごらんよ」と、また手を掴まれ触らせられた。
 みると彼の股間が膨らんでいる。
 本格的に恐怖を感じていたところ
「ガタッ」
 もう1人の入居者が起きた音がした。
 この瞬間、チャンスだと思い「もう話は終わったよね? じゃあこれでさよなら」と言い放ち荷物を持って逃げるようにドアの外へ。

 たまたま脱出出来たものの、後から考えると恐怖で体が震えた。
「もしあの時2人きりの空間だったら?」
「オーナーが犯罪者だったら?」
 もしカナダで部屋を探す場合は気をつけて頂きたい。

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