海へ帰る人

お盆に親戚の家に帰省した時に聞いた話。

 

2年前に親戚の兄ちゃんが海に夜釣りに行くってことで、
これまたお盆で帰省中だった友人のAさんとBさんの三人で
車で少し地元から離れた魚が結構釣れると噂の堤防に行ったらしい。

その堤防はL字型になっている堤防で、海岸から大体100m位の長さ、
L字の内側が陸地と地続きになっていて、
L字の外側が大体4m位の高さの二段に分かれている高低差のある堤防で、
登るためのハシゴは先端の方に1つ、陸に近い場所に1つの計2つだけしか無いちょっと面倒な堤防だった。

大体夜中の1時ぐらいにその堤防に付いた兄ちゃんたちは、
街灯がないから自分たちで持ってきたライトを頼りに堤防の方に歩いていった。

すると、堤防の先からこっちに向かって歩いてくるような竿を入れる細長いカバンを持った人影が見えた。

兄ちゃんは最初、自分たちと同じ釣り目的で来た先客なんだと思ったみたいで、
今日は駄目だったのかな」って真っ先に考えたらしい。

だから友人二人に「今日は無理かもしれんなぁ」って言ったところ、
友人二人は「は?なんで?」って声を揃えて同じ反応で返してくる。

向こうから来てる人影に気づかないのか?と思ったので、
「ほら、向こうから人が来てるじゃん。多分釣れなかったから帰る所なんじゃない?」って言ったら、
Aが堤防に目を凝らしながら「人?そんな見えないけど?」って。

続けてBも「俺も見えないけど。お前何見てんの?こんな時間にやめろやw」って言う。

でも、兄ちゃんにはその人影らしいものがどんどんこっちに近づいてきているのが分かるらしくて、
なんとなく嫌な予感がしたらしい。

そうこうしてる内に兄ちゃんたちは陸地に近いハシゴまでたどり着いたんだけど、やっぱり向こうから誰か歩いてきてる。

でも、靴のコツコツって音じゃなくて何かを引きずってるようなズルッズルッって足音で余計に気味が悪かった。

友人二人はこのハシゴ登ってから堤防の先端まで行くか、
それとも先端のハシゴまで歩いてから登るかどうしようって言い合ってたんだけど、
その間兄ちゃんだけは向こうから来る人影にライトを向けて、その人影を凝視してた。

すると、その人影が大体50m付近で立ち止まり、おもむろに堤防をハシゴを使って登り始めた。

帰るんじゃないのか?って疑問と、あそこにもハシゴあったんだというちょっとした驚きが同時に湧いて、
隣りにいたAの肩を軽く叩き、「あそこにもハシゴあるみたい」って言いながら振り返ると、
堤防を登りきったらしいその人影はなんの躊躇もなく倒れ込むようにして海に飛び込むのが見えた。

兄ちゃんは「ヤバ!誰か海に飛び込んだ!」ってパニック。

兄ちゃんに肩を叩かれ振り向いたAさんもハシゴを登りきった人影が飛び込むのは見えたみたいで「マジ?!ヤバ!!」って叫んだらしい。

唯一見てなかったBさんだけは「なに?なに?どうしたの?」って言ってたんだけど、
二人の雰囲気的におかしいと思ったみたいで、
とりあえず助けないと」ってAさんの言葉に従って、荷物置いて三人で飛び込んだ地点まで走り出した。

すぐに飛び込んだらしいところまでたどり着いたんだけど、見てびっくり。

そこにはあるはずのものが無かった。

そう。ハシゴ。

人影は明らかにハシゴを登る仕草をしていて、そこには間違いなくハシゴがあった。

にも関わらず、そこにはハシゴがない。兄ちゃんもAさんも固まったままちょっと呆然としてたらしい。

この時点で既に怖くなってた三人は、満場一致でさっさと帰ることにした。

結局、帰る道すがら車中で3人であれこれ話し合ったが、
お盆だったこともあり、もしかしたら海へ帰る人だったのかなぁって感じで微妙に消化不良のまま解散したらしい。

 

そんで、こっからが俺の体験した話。

その話を兄ちゃんから聞いた俺は兄ちゃんと一緒にその堤防に実際に行くことにしたんだよ。

つっても昼間だから怖くないし、大丈夫だろうってね。

んで、実際に見たその堤防は何の変哲もないただの堤防だった。

ただ、ハシゴが無かった。真ん中にあったというハシゴじゃなくて、
先端にあるというハシゴも、陸地に近いところにあるハシゴも。

それに堤防の高い部分には登れないように返しの付いた鉄柵がついてて、
自前のハシゴがあっても登れないようになってた。

兄ちゃんは「あれ?ハシゴ撤去されたんかな?」って言ってて、
俺も危険だしなーって位に思ってた。

そしたら近所に住んでるらしい爺ちゃんが近寄ってきて、
なんや、釣りか?」って聞いてきた。

なんとなく言うのを躊躇する目的だったので、
話を合わせるように「ええ、その下見で。よく釣れるって聞いたんで」って答えた。

そしたら爺ちゃんは「時々おるけど、皆なんで来るんやろな。登られへんのに」って言う。

俺は気になったので「ハシゴも無くなってるみたいですし、鉄柵まで付いてるんですね。いつ頃からなんですか?」って聞いた。

そしたらその爺ちゃんは「ハシゴが無くなったのも、鉄柵が付いたのももう10年も前やで」って普通に答えた。

俺と兄ちゃんは顔を見合わせた。
構わずに爺ちゃんは続ける。

「にも関わらず、その大昔にあったハシゴが無い言うて時々釣り人が聞きに来るねん。何年前やねん!ってな」 って豪快に笑ってる。

この時既に兄ちゃんの顔がひきつってて、
代わりに俺が「どうして無くなったり、鉄柵付いたんですか?」って聞いたのよ。

そしたら爺ちゃん平気な顔して「自殺や。10年前そこで飛び込み自殺した馬鹿がおったんや」って。

「元々危ないとは言われとってん。でもそれが切っ掛けで、鉄柵が出来て、元々3つあったハシゴも全部撤去されたんや」

この爺ちゃんが言うには元々ハシゴは3つあって、真ん中のハシゴ付近で自殺したやつが居たらしい。

自殺と断定した理由は自宅の遺書。

それで真っ先にそのハシゴが撤去されて、鉄柵が出来、
必要のなくなった残りのハシゴも撤去されたらしい。

鉄柵が出来るって話が出てからその前に事で釣り人が結構来たらしいからその時の情報が未だに出回ってるんだとも言ってた。

「どうしてこんな場所で自殺なんて?」と尋ねると、爺ちゃんは
知らん。ただ、両足首を事故かなんかで無くしたらしくてな。それが理由とは言われとる」って教えてくれた。

隣で聞いてた兄ちゃん顔真っ青。俺も若干顔がひきつってたと思う。

ズルズル言ってたのは足首が無いから引きずってた、
飛び込んだのは海へ帰る人ではなく自殺シーンの再現、
その上見たはずのハシゴがそもそも全て無かった、挙げ句に見た覚えのない鉄柵は10年前からあったという。

ここまで来ると流石に怖くなって、早々にその爺ちゃんにお礼を言い、立ち去ろうとした。

その時、ドボーン!!って海に何かが飛び込む音がした。

堤防の方から。 振り返ると、堤防の真ん中あたりで黒い人影のようなモノが陽炎のように揺らめいていた。

そこまで見て、俺と兄ちゃんは脱兎のごとく逃げ出した。

車に乗り込んで海岸線をぶっ飛ばして帰った。 そんなお盆の思い出。

 

でもさ、帰ってきてこれ書いてて思うんだよね。

これ本当に自殺したのかな…。

自殺なら陸地から堤防に向かうはずだから堤防の先から歩いてくるわけないし、
なんで飛び込んだはずの影が堤防に立ってんだよ。

もしかして、兄ちゃんが見た人影が提げてた竿を入れるバッグのようなものってそれ…。

朗読: りっきぃの夜話
朗読: 繭狐の怖い話部屋

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