作者:夢猿「夢」
(※半ノンフィクションです。個人の特定を避けるため、情報をぼやかしながら脚色も加えております。あくまで創作物として、気軽に読んでいただければ幸いです。)
東北に住む、とある友人は霊感の強い体質だ。
大きな夢を抱いて上京し、バイト先ですぐに友達を作ったりとすごく社交的なやつで、そんな彼に居心地の良さを覚え、人だけでなく霊も寄ってくることが多かったそうだ。
そんな友人、仮に壮太としよう。今回は、壮太が初めて遭遇した霊体験を、話したいと思う。
壮太が中学生だったころ、夏休みに同市内にある母の実家へと遊びに行った時のことだ。
彼の母の実家はその地域ではまぁまぁ力を持った名家で、一階建ての平屋だが敷地も広く、立派な鯉が飼われている庭には骨董品を納めた納屋(なや)なんかもあった。
祖父は厳格な人で、箸の持ち方一つでもブチ切れるような感じ。しかも、自室には日本刀が飾ってあったりとかして、怖い人ってイメージがあるから、正直苦手だったそうだ。
しかし、祖母は孫の中でも唯一の男の子である壮太を「そうちゃん」と呼んで非常に可愛がっていて、行く度にお小遣いなんかもくれるもんだから、バスに乗れるようになってからは1人でも遊びに行くようになった。
その日も一人でばあちゃんに会いに行った壮太は、庭で鯉に餌をあげていた。
庭に生えた松の木には小鳥も止まってたりとかして、とても和む光景ではあるけれど、活発な性格の壮太はその平和な風景に退屈してた。
「あ~サッカーしてぇ。」なんて呟いていると、突然。空気が重くなったのを感じたそうだ。
空気が重いって抽象的な表現だけど、本当に空気が重くなったとか、空気が淀んだとしか、形容できない。そんな雰囲気。
そして、木に止まっていた小鳥たちが、一斉に飛び立った。まるでカラスだのトンビだのに襲われたような逃げっぷりで、壮太は驚いてそっちを振り返った。
でも、松の木の周りには、トンビどころか何もいない。
辺りを見回してみる、高い塀が庭を囲んで外は見えなくなってるんだけど、この庭にいるのは自分と、鯉ぐらいなもんだ。
「何かしちゃったかな?」壮太は自分の行動を思い返してみるが、せいぜい独り言を呟いたぐらいで、思い当たるフシはない。
そういえば、この重い空気感はなんだろうか。なんだか手足が冷えてきた。なんで?夏場だよ?まだ昼間だし。
まるで体中の血の巡りが悪くなったような、そんな感覚。
なんだか肩も重たくなってくる。
「え…さむっ」
寒気を感じて、思わず両腕を前に組んだ。歯が何度も噛み合わされ、ガタガタする。
身体が震えている。
風邪でも引いたかな。
とにかく、一旦家へ戻ろう。
寝込んじゃったら、じいちゃんに怒られるかな。だらしないって。
そんなことを思って歩き出した時だった。
とてもゆっくりだが、草を踏み込むような足音が、後ろから聞こえて来た。
ザッ ザッ ザッ ザッ
後ろを振り返るが、誰もいない。
ザッ ザッ ザッ ザッ
足音は少しずつ、こちらに近付いて来ているようだ。
なんだか気味が悪くなった壮太は、足音から逃げるように再び歩き出した。
走っても良かったが、なんだか足音の主を刺激してしまうような気がして、躊躇われた。
それに、なんだかとても足が重く感じる。自分の足じゃないみたいに、自由に動かせない。
縁側までもう少し。という所で気が抜けたのか、両膝が折れ、地面に手をついて四つん這いになってしまった。
ザッ ザッ ザッ ザッ
膝を強く打ったが、痛みよりも足音が気になって仕方ない。
立って…逃げなきゃ…と思ったが、足音が近付くに連れて身体が重たくなり、壮太はとうとう自分の身体が支えきれなくなって、完全に倒れてしまった。
足音の主はそこまで来ている。
しかし、壮太の意識は少しずつ遠のき、そこで記憶は途切れた。
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気が付くと、天井を見上げていた。
古い木造の天井だ。何度か泊まった時にこの天井を見た。ここはばあちゃん家の寝室だ。
部屋は真っ暗だ、今は夜か。いつの間に布団に入ったのだろう?
自分はおばあちゃんに会いにきて…そして…
「そうちゃん、目が覚めたかい?」
ばあちゃんの声がする。
声がした方に顔を向けると、ばあちゃんは暗闇の中で、壮太が寝ている布団の横に、正座していた。
「ばあちゃん…俺…俺…」
壮太は先程起きた話をしようとするが、慌ててしまいしどろもどろになってしまう。
ばあちゃんは起き上がろうとする壮太の身体を抑え、小さな声で言った。
「まだ、そこにおる。自分のことを話されてるってわかったら、入ってきちまうから、静かにせい。」
入って…きちまう?まだ、そこにいる?
再びあの寒気が襲ってきた。
ばあちゃんの顔を覗き込むと、いつもの笑顔はなく、見たこともないような冷たい表情で、反対側をじっと睨んでいる。
そこに…いるのか。
見たくない。しかし、好奇心が勝り、壮太はその視線の先を見てしまった。
客人用の寝室と庭へ通じる縁側を一枚の障子が隔てている。そして、壮太はそこに映る影を見てしまった。
鎧…武者?
ドラマとか、歴史の教科書で見たような、立派な鎧と兜のシルエットが、障子越しに映し出されていた。
あまりに非日常的な光景を目にしたためか
壮太の震えと寒気は加速し、涙が止まらない。
震えは痙攣へと代わり、壮太はとうとう泡を吹いて失神してしまった。
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ここから先の話は、壮太の意識がない中で起きたことであるため、ばあちゃんから聞いた話だ。
早い話、壮太は庭で鎧武者の霊に取り憑かれてしまったそうだ。
壮太が庭で気絶した直後、様子を見に来たばあちゃんが壮太を発見。じいちゃんを呼んで二人で家の中へと運び込んだ。
布団の中で壮太は何度もうなされていた。じいちゃん、ばあちゃんはこういった取り憑かれた人にみられる症状?みたいなのを何度か見たことがあるらしく、壮太は何者かに取り憑かれ、非常に危険な状態であるということがすぐにわかった。
しかし、冒頭でも触れた通り、壮太の母の実家は昔から力を持つ名家であり、かつて地域内では相当な有権者であった先祖の写真なんかも飾ってあったことから、霊は家の中にまで入ってくることはできず、完全に取り殺されずには済んだ。
普通の霊なら、少し時間が経てば先祖のご威光?とやらにビビって帰ってしまうらしいのだが、この霊は少し異常なくらい壮太へ執着していたため、庭から離れず壮太はしばらくうなされ続けた。
そして、夜になると障子に鎧武者の影が映し出されたそうだ。その鎧武者が、壮太に取り憑いていることは明白だった。
取り憑かれた理由はわからない。長らくその地域に住んでいたじいちゃん、ばあちゃんも、ここまでハッキリと霊を見たのは初めてのことだったそうだ。
間違いなく強い、そしてタチの悪い悪霊であることを悟ったじいちゃんは、納屋に収められた「ある物」を取りに行くため、庭へと出ることにした。
しかし、じいちゃんも庭に出たら無事に済むかはわからない。
ばあちゃんはご先祖様に祈りながらも、じいちゃんに何かあったら刺し違えてでも鎧武者をどうにかする気でいたらしい。
幸い、鎧武者は壮太に執着しているため、庭に出たじいちゃんには無関心な様子。
その隙を突いて、じいちゃんは納屋へと移動。
孔子という、かつて中国に広く伝わった儒教の始祖が描かれた絵を回収した。
じいちゃんは庭から出ると、鎧武者に孔子の絵をかざした。
すると鎧武者はその場から立ち去り、壮太の発作も治った。
その後、壮太は眠り続け
翌朝には体調が完全に復活して、自宅へと帰ったそうだ。
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このエピソードはこれで終わりだ。
しかし、なぜ孔子の絵がそこまでの威力を秘めていたのだろうか。壮太のじいちゃんは、その秘密を知っていたのだろうか。
現在、壮太のじいちゃん、ばあちゃんはお亡くなりになってしまったため、その真意を聞くことは、もうできない。
そして、この話最大の謎は鎧武者の正体である。
「なぁ、お前のじいちゃん。直で鎧武者の顔を見たんだろ?一体どんな顔してたんだ?」
俺の問いかけに、壮太は俯きながら答えた。
「俺に、そっくりだったんだとさ。」
